2026年7月1日、『Fate/Grand Order Original Soundtrack Ⅷ』が発売された。全3枚組、税込4,180円、品番はSVWC-70758〜70760。数字だけ並べればよくあるゲームサントラのリリースだが、収録内容を眺めていると、これは単なる「2025年のまとめ」ではないと気づく。ディスク2の中ほど、静かに置かれた2曲──「Grand Order ~Re-recording ver.~」と「カルデア ~Re-recording ver.~」。11年前から鳴り続けてきたテーマを、いま、録り直す。その一点だけで、このサントラは特別な一枚になっている。
全3枚組・65曲が背負った「終章」
収録の中心は「奏章Ⅳ 人類裁決法廷トリニティ・メタトロニオス」と「第2部 終章」。加えて2025年に開催されたイベント楽曲がまとめられ、Disc1が16曲、Disc2が22曲、Disc3が27曲、合わせて65曲という大所帯だ。さらにTVCMで使われた「Let the New You」「Proof」「Echoes」「Reson8te(feat.六花)」「Iron Rose」も収められている。
『Fate/Grand Order』の音楽といえば、芳賀敬太を中心とする布陣が長く支えてきた。ゲーム音楽の作曲家に課される要求は、劇伴作家のそれと重なりながら、決定的に違う部分がある。映画やドラマの劇伴は「一度きりの時間」に寄り添えばいい。だがゲームのBGMは、プレイヤーが何十回、何百回とループさせる。飽きさせず、しかし記憶に食い込む。この矛盾した課題を、FGOの音楽は10年以上にわたって解き続けてきた。
「Grand Order ~Re-recording ver.~」という一手
Disc2の曲順は、そのまま物語の呼吸になっている。「カウントダウン」で始まり、「人理保障天球:オルガ・カルデアス」「空洞天球理論:アニマ・アニムスフィア」と天球の名を冠した曲が続き、「人理詐称天球:マリス・カルデアス」で反転する。「セイファート・ライムライト」「クエーサー・ジェネシス」「M・スペクトラム」とバトル曲が段階的に規模を増し、そして「終わりと始まり」。
その直後に、再録版の「Grand Order」と「カルデア」が置かれている。この配置は明らかに意図的だ。物語が終わった場所で、始まりの音を鳴らし直す。しかも新曲ではなく「Re-recording」──同じ譜面を、いまの機材と、いまの演奏で、もう一度。ゲーム音楽における再録は、単なる音質のアップデートではない。「この曲はまだ現役だ」という宣言であり、同時に「あの頃とは違う」という時間の証明でもある。
- Disc1:奏章Ⅳの法廷パート。「人類裁決法廷:トリニティ・メタトロニオス Ⅰ/Ⅱ」が前後を挟み、「罪と罰 ~BATTLE 20~」「Last Tribunal ~裁判長戦~」が続く構成
- Disc2:第2部終章。「Grand Order ~Re-recording ver.~」「カルデア ~Re-recording ver.~」を収録
- Disc3:2025年のイベント群。夏、ハロウィン、ぐだぐだ新選組と、季節が一枚に詰まっている
祝祭と日常が同じ盤に載るということ
Disc3の並びが、実はこのサントラでいちばん「FGOらしい」。「巨竜の島」「神の雷」といった神話的なスケールの曲のすぐ隣に、「カルデア・U-サマーアイランド:ショップテーマ」や「ぐだぐだショップ大炎上 ~旗~」が並ぶ。人理を賭けた戦いと、水着イベントのショップBGMが、同じ作品の同じ年の音楽として一枚に収まる。この落差こそがソーシャルゲームの音楽であり、ほかのどんなメディアの劇伴にもない特性だ。
映画のサントラは、映画という閉じた時間の記録だ。TVアニメのサントラは、1クールないし2クールの記録だ。だがソーシャルゲームのサントラは、プレイヤーが過ごした「1年」そのものの記録になる。ショップテーマが胸に刺さるのは、曲の出来が良いからだけではない。その曲を聴きながら素材を集め、周回し、日付が変わるのを待った時間があるからだ。
サントラは、プレイ時間の年輪になる
ゲーム音楽のコンサートが年々増え、2026年も『クロノ・トリガー』『ELDEN RING』『ペルソナ』『モンスターハンター』とホールが埋まり続けている。その土壌をつくったのは、こうして地道にパッケージ化されてきたサントラの積み重ねだろう。配信で聴けるからCDは要らない、という話は半分正しい。だが3枚組の曲順を頭から通して聴く体験は、シャッフル再生では絶対に再現できない。作曲家とディレクターが並べた65曲の順番そのものが、ひとつの編集された物語だからだ。
「終わりと始まり」のあとに「Grand Order」の再録が鳴る。この2曲の並びを味わうためだけでも、Disc2は頭から通して聴く価値がある。第2部が閉じ、それでも人理の音は録り直されて続いていく──サントラという形式が、それを最も雄弁に語っている。