国内累計興行収入75億円を突破し、いまだロングランを続けている映画『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』。その音楽が、ついにフィジカルで手元に届く。iam8bit japan & asia(ユーマ株式会社)が、本作のオリジナル・サウンドトラック国内盤CDおよびアナログレコード(2LP)を9月9日より販売開始した。前作『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』に続き、舞台を宇宙へと広げた最新作。ゲーム音楽として親しまれてきた旋律が、フルオーケストラのスケールでどう鳴らし直されたのか──劇伴好きとしては、これは聴き逃せない一枚だ。
ブライアン・タイラーが引き受けた、二重の責任
音楽を手がけたのは、前作から続投したブライアン・タイラー。『ワイルド・スピード』シリーズをはじめ100作以上の映画・ドラマを手がけ、2022年にはBMIから最高栄誉のアイコン賞を受けたハリウッドの重鎮だ。彼がこの仕事で背負ったのは、二重の責任だと思う。ひとつは、宇宙を舞台にした映画のスケール感を音で立ち上げること。もうひとつは、40年近く世界中の耳に刻まれてきた任天堂の“マリオの音”──近藤浩治が書いたモチーフ──を壊さずに、しかし新しく響かせることだ。プレスリリースによれば、本作もフルオーケストラを軸に据えつつ、近藤浩治による原作楽曲のモチーフを随所に織り込んでいるという。
これは言葉にすると簡単だが、実際にはかなり難しい綱渡りである。ゲーム音楽のモチーフは、たった数小節で「これはマリオだ」と分からせる強度を持っている。その記号性をオーケストラの分厚い響きの中に置くと、下手をすると引用が浮いてしまう。逆にモチーフを消しすぎれば、「マリオである必然性」が薄れる。タイラーはハリウッド流の主題労作(テーマを変奏し発展させる手法)で、この記号を映画音楽の文法へ翻訳してみせた、というわけだ。
ゲーム音楽が“映画のスコア”に昇格するとき
近年、ゲーム由来の音楽がコンサートホールや映画館で鳴る機会は爆発的に増えている。だが『ギャラクシー・ムービー』が興味深いのは、それが「ゲーム音楽のオーケストラ・アレンジ」ではなく、あくまで映画のために新規に書かれたスコアである点だ。原曲の『スーパーマリオ ギャラクシー』のテーマは確かに顔を出すが、それは引用というより、物語を駆動する主題として作品全体に編み込まれている。ゲームの記憶が、映画という別メディアの時間軸の中で機能する。これは、ゲーム音楽が“素材”から“ドラマの語り手”へと役割を変えた瞬間と言っていい。
- 国内盤CD:2枚組。ディスクごとにマリオの赤とルイージの緑を配し、元ファミ通編集部ローリング内沢によるライナーノーツを封入。価格4,980円(税込)。
- 国内盤2LP:赤いチコをイメージした日本限定カラーヴァイナル。ジャケットに蓄光や箔加工を施した豪華仕様。価格12,480円(税込)。
- そのほか:iam8bit限定のパープル盤LP、ギャラクティック・ブルーのカセットテープなど、コレクター心をくすぐる展開も。
“聴くための銀河”を、フィジカルで持つ意味
配信全盛の時代に、なぜ蓄光ジャケットの2LPなのか。それはこのサントラが、単なる劇伴の記録ではなく「作品世界を所有する体験」としてデザインされているからだろう。ゲーム音楽のフィジカル文化を牽引してきたiam8bitらしい仕事で、ヴァイナルの溝に刻まれた銀河を、ターンテーブルの上でもう一度回す──そんな聴き方までを含めての企画だ。近藤浩治のDNAを受け継いだ旋律が、ハリウッドのオーケストレーションを通り、日本限定カラーの円盤に宿る。ゲーム音楽と映画音楽、そして日本とハリウッドが一枚の盤の上で握手する。劇伴の越境が、また一つ具体的なかたちになった。