7月に始まった動画工房のオリジナルTVアニメ『メビウス・ダスト』。そのオリジナル・サウンドトラックが9月16日、Flying Dogから配信リリースされた。収録は全55曲。作曲はDÉ DÉ MOUSE──クラブミュージックの現場で20年近く、あの“切り刻まれた歌声と、何層にも積み上がるメロディ”で唯一無二のポジションを築いてきたアーティストだ。
「単独で全曲」は、これが初めて
DÉ DÉ MOUSEは遠藤大介によるソロプロジェクト。2006年にExT Recordingsから1stアルバム『tide of stars』を出し、2008年にavexからメジャーデビュー、2012年以降は自主レーベル「not records」を拠点に活動している。本人は自分の音楽を「シンセサイザーミュージック/ニューエイジ・ミュージックの派生」と位置づけているが、リスナーの記憶に残っているのは、やはりカットアップされたボイスサンプルと、次から次へと折り重なっていく人懐っこいメロディだろう。
アニメとの縁も浅くない。これまでに『ワンダーエッグ・プライオリティ』や『山田くんとLv999の恋をする』で劇伴に関わってきた。ただし今回の発表では、『メビウス・ダスト』は「DÉ DÉ MOUSEが単独で全曲の劇伴を手がける初のアニメ作品」とされている。つまりこの55曲は、彼が一本のシリーズの音世界を最初から最後まで一人で設計した、最初の記録ということになる。
超能力の子どもたちと、“初期衝動”の55曲
作品は、KADOKAWAらが主催したオリジナルアニメ企画コンテスト「Project ANIMA」第三弾の「キッズ・ゲームアニメ部門」大賞に輝いた品川一の原案をもとにしたSF。監督は岩崎太郎、シリーズ構成は冨田頼子、アニメーション制作は動画工房。7月9日からTOKYO MX、BSフジ、MBSで放送されてきた。隕石の落下をきっかけに、謎の粒子「メビウス・ダスト」によって特殊能力を得た子どもたちと、彼らを取り巻く大人たちの物語だ。
注目したいのは、DÉ DÉ MOUSE自身のコメントである。彼は「丁寧に音楽の方向性を監督と擦り合わせた後、1ヶ月で55曲を初期衝動のようなエネルギーで作らせていただきました」と語り、「どの曲にも登場人物の心の中を自分なりにメロディに落とし込んでいます」と続けている。
- 1ヶ月で55曲:単純計算で1日2曲近いペース。方向性の擦り合わせに時間をかけ、決まったら一気に書き切る──アルバム制作よりも、むしろライブの集中力に近い作り方だ。
- “心の中をメロディに”:劇伴の定石である「場面の感情を支える」から一歩踏み込み、キャラクターの内面そのものを旋律化するという宣言。メロディメイカーとしての自負が見える。
- 配信のみ・全55曲:Apple Music、Spotify、Amazon Musicなど主要サービスで一斉配信。CDの収録時間の制約を受けずに、全曲を一度に聴ける。
クラブの作家が劇伴を書くと、何が変わるのか
ここからは筆者の見立てになる。近年のアニメ劇伴では、牛尾憲輔やfox capture plan、Kevin Penkinのように、“バンドやソロ作家としての作家性”をそのまま作品世界に持ち込む起用が一つの潮流になっている。オーケストラの万能選手に任せるのではなく、「この人の音色が欲しい」という指名だ。DÉ DÉ MOUSEの起用も、その流れのど真ん中にあると思う。
彼の音楽の強みは、ビートが鳴っていても「歌えるメロディ」が必ず前に出てくることだ。超能力を持った子どもたちという題材は、ともすれば重く暗いトーンに寄りがちだが、キラキラとしたシンセと懐っこい旋律は、そこに“子どもらしさ”や“まだ名前のない感情”を差し込むことができる。55曲という物量は、登場人物ひとりひとりにそれぞれの旋律を割り当てる余地があったことの裏返しでもあるはずだ。
そしてもう一つ面白いのは、サントラ配信と前後して、DÉ DÉ MOUSEは都内のクラブイベントやDJパーティーへの出演を続けていることだ。劇伴のために書いたメロディが、いつかフロアで鳴る日が来るのか──“劇伴作家”と“ダンスミュージックのアーティスト”の境目が溶けていくこの時代らしい楽しみ方が、このサントラにはある。
放送を追いかけてきた人はもちろん、DÉ DÉ MOUSEのファンで作品は未見という人にも、まずはこの55曲を頭から流してみてほしい。1ヶ月の“初期衝動”が、そのまま音の密度になっているはずだ。