9月27日の第13話で完結した京都アニメーションのTVアニメ『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』。放送が終わってから、じわじわと効いてくるのが“音”なんですよね。9月30日にリスアニ!で公開された、劇伴作家・湖東ひとみさんとOP主題歌の作詞・歌唱を担当した五阿弥ルナさんの対談を読んで、あの独特の手触りの正体がかなりハッキリしました。ひと言でいうと、この作品の劇伴は「弦楽器をあえて外し、英国式ブラスバンドを中心に組んだ」スコアだったんです。

20世紀初頭の京都、主役は“管”

原作は結城弘さんのKAエスマ文庫。監督は太田稔さん、シリーズ構成は浦畑達彦さん、音響監督は鶴岡陽太さん。舞台は20世紀初頭の京都で、電気よりも蒸気が幅をきかせる世界を描いた物語です。7月5日からABCテレビ、TOKYO MXなどで放送され、配信はNetflixという布陣でした。

音楽を担当した湖東ひとみさんは、対談で劇伴の編成について「英国式ブラスバンド(金管楽器と打楽器のみで構成されるバンド編成)」を軸にしたと語っています。理由として挙がっていたのが「金管楽器や木管楽器の“管”の感覚が、この世界に合うんじゃないか」という発想。蒸気機関の配管が張りめぐらされた街並みと、息を吹き込んで管を鳴らす楽器。言われてみると、これ以上ない取り合わせです。

逆に弦楽器については「この作品の世界観に弦楽器を使うと、高尚になりすぎるというか、目線が高くなりすぎてしまう」とのこと。アニメ劇伴でストリングスを外すのは相当な決断です。感情の“のり”を出すには弦がいちばん手っ取り早い。それを手放してでも、登場人物たちと同じ目線の高さ、街の空気の湿度を守りたかった──という判断として読むと、本編で感じた素朴な温かさにも納得がいきます。

コルネットとフリューゲルホルンが運ぶ“ぬくもり”

英国式ブラスバンドは、一般的な吹奏楽と違って木管を含まず、トランペットの代わりにコルネットが中心に座るのが特徴。そこにフリューゲルホルン、テナーホーン、ユーフォニアム、チューバといった、柔らかく丸い音色の楽器が重なります。湖東さんも対談でコルネットやフリューゲルホルンに触れ、「普段あまり耳にする機会のない楽器にも興味を持っていただけたら」と話していました。

金管なのに刺さらない、むしろ包み込むような響き。これがこの作品の“レトロだけど古臭くない”質感を支えていたんだと思います。オーケストラの壮麗さとも、ジャズのビッグバンドの粋とも違う、町の楽隊のような親密さ。京アニの緻密な美術と並べたときに、絵の情報量を邪魔しない音色だったのも大きいはず。

もうひとつ印象的だったのが、湖東さんが本編を観て語った「“無音も1つの音”として扱う」という感覚。鳴らす場面と鳴らさない場面の線引きが研ぎ澄まされていたからこそ、ブラスが入った瞬間の“ふわっと世界が明るくなる”感じが際立っていたのでしょう。

劇伴作家がOPも書く、という設計

OP主題歌「ユーレカ・エヴリカ」は湖東さんが作曲・編曲、五阿弥ルナさんが作詞・歌唱。対談によると、最初から監督の中に「劇伴作家にOP主題歌も書いてもらいたい」という考えがあったそうです。湖東さんは「オープニングと劇伴、そして物語との距離が近く、密接に繋がっている」ことを大切にしたと語り、実際に「OPのテーマを劇伴に生かしている曲もあります」とも明かしています。

ただしOPと劇伴は同じ編成ではなく、劇伴は「オープニングとは少し違う、金管楽器を中心とした編成」に落ち着いたとのこと。主題歌の華やかさを背骨にしつつ、本編ではより素朴な楽隊の響きに着地させる。モチーフは共有しながら、音色の距離感で“晴れの日”と“日常”を描き分けていた、と考えるとかなり設計的です。ちなみにEDはGinger Rootの「Soarin'」。OPとEDでまったく違う風を吹かせていたのも、この作品らしい遊び心でした。

“本格始動”の一作として

所属事務所ハートカンパニーのプロフィールによれば、湖東さんは幼少期からヴァイオリンを学び、合唱にも打ち込んだのち、洗足学園音楽大学の音楽・音響デザインコースを首席で卒業。山下康介さんらに師事し、テレビ、ミュージカル、オペラ、映画、ゲームへの楽曲提供やコンサートのアレンジを手がけてきた方です。そして本作が「劇伴作家として本格始動」のきっかけになった、と紹介されています。ヴァイオリン出身の作家が、あえて弦を封じて書いた劇伴──そう聞くと、余計に興味が湧きませんか。

OP主題歌のシングルは9月30日に発売済み(通常盤1,430円、Tシャツ同梱の数量限定盤7,700円)。Blu-ray&DVDは上巻が10月28日、下巻が11月25日に発売予定で、2027年1月24日にはスペシャルイベントも控えています。劇伴そのものをまとめて聴ける音源の発表は、本稿執筆時点では確認できていません。だからこそ、続報を待ちながら本編をもう一度、今度は“管の音”に耳を澄ませて観返してみるのがおすすめです。