ニューヨーク、ロサンゼルス、そして次はイタリアだ。菅野よう子が2026年度から本格化させている世界ライブ展開「地球出没?プロジェクト」。その第3弾として、10月31日〜11月1日にイタリアの「Lucca Comics & Games 2026」に出演し、11月3日にはミラノのTeatro Nazionale Italiana Assicurazioniでソロ・プロジェクト「PIANO ME」の公演を行う。本人にとってイタリアは初訪問、イタリアでのコンサートも初めて。ルッカまであと3週間あまり、いまのうちにこのプロジェクトの流れを整理しておきたい。
NY、LA、そしてヨーロッパへ──「地球出没?」のこれまで
このプロジェクトはTOKYO MXのサポートのもとで2026年度にスタートした。公式発表やプレスリリースで確認できる足取りはこうだ。
- 第1弾(4月・ニューヨーク):4月10日にブルックリンのKings Theatreで「YOKO KANNO SEATBELTS」、11日にThe Town Hallで「PIANO ME」。2公演の合計で5,000人以上を動員。
- 第2弾(7月・ロサンゼルス):7月2日、Anime Expo 2026内の音楽イベント「J-POP SOUND CAPSULE」(Crypto.com Arena)にオープニングアクトとして約30分出演。
- 第3弾(10〜11月・イタリア):Lucca Comics & Games 2026(10月31日〜11月1日)出演、11月3日にミラノで「PIANO ME」。
面白いのは、編成が毎回まったく違うことだ。ブルックリンでは本田雅人(サックス)、今堀恒雄(ギター)、佐野康夫(ドラム)というSEATBELTSのオリジナルメンバーが集結し、スティーヴ・コンティやスコット・マシューらのボーカルも迎えて「TANK! Extended」「Rain」「Call Me Call Me」「Inner Universe」など20曲以上を演奏した。一方LAでは、ピアノで『カウボーイビバップ』や『攻殻機動隊 S.A.C.』の楽曲を弾き、高橋洋子と組んで「残酷な天使のテーゼ」の菅野アレンジ版ピアノ演奏を初披露している。バンドで鳴らす日もあれば、ピアノ1台で向き合う日もある。どちらも“菅野よう子”なのが、この人の底知れなさだ。
「PIANO ME」がヨーロッパ初上陸する意味
ミラノで披露されるのは後者、ピアノの生演奏と映像を組み合わせたソロ・プロジェクト「PIANO ME」。ルッカの公式サイトはこれを“ヨーロッパ初演”と紹介している。制作はLet Me SeeとYellow Echoes。
劇伴作家のライブというと、オーケストラで代表曲を壮大に再現する形を思い浮かべがちだ。でも菅野よう子の劇伴は、もともとジャンルを横断する“雑食性”がすべての出発点にある。ビバップのジャズ、S.A.C.のエレクトロニカ、『マクロスF』のポップス、『アクエリオン』の讃美歌的な合唱。その全部をいったんピアノ1台に還元すると、メロディと和声の骨格だけがむき出しになる。編成を削るほど作曲家本人の“手癖”が透けて見える、というのがPIANO MEの醍醐味だと思う。
Anime Cornerが9月9日に公開したインタビューで、彼女はイタリアについてこう語っている。「プッチーニやエンニオ・モリコーネのようなイタリアの作曲家の音楽表現に、ずっと心を奪われてきました。あそこで演奏すると思うと心が躍ります」。オペラと映画音楽の国で、アニメの劇伴をピアノで鳴らす。これほど“似合う”舞台もなかなかない。
60周年のルッカで「Yoko Kanno Celebration」
Lucca Comics & Games 2026(会期は10月28日〜11月1日)は、今年で60周年を迎えるヨーロッパ屈指のコミック&ゲームの祭典だ。公式サイトのゲストページによれば、菅野よう子は11月1日15時〜16時30分の「Yoko Kanno Celebration」に登場する。“世界中で知られるアニメ・サウンドトラックのアーティストとの音楽的な出会い”と題された企画で、参加には事前登録が必要とされている。
同じインタビューで彼女は、作曲家にとって旅は欠かせないとして、ニューオーリンズ、アイスランド、ブラジルを訪ねてきた経験に触れ、次はアフリカで「リズムが始まった場所を自分の体で感じたい」とも話している。つまり「地球出没?」は、単なる海外ツアーというより“作曲家の取材旅行を兼ねたライブ”なのかもしれない。ルッカとミラノで浴びたものが、次の劇伴にどう滲み出てくるのか。そこまで含めて追いかけたいプロジェクトだ。