映画音楽ファンとして、今週いちばん「その手があったか」と唸ったリリースがこれです。アーロン・ソーキンが脚本・監督を務めた新作『The Social Reckoning(原題)』が10月9日(現地時間)に全米公開され、同じ日にソニー・クラシカルからアレクサンドル・デスプラによるオリジナル・スコア全17曲がデジタル配信されました。そう、あの『ソーシャル・ネットワーク』の“その後”を描く作品です。
レズナー&ロスの続編を、デスプラが鳴らすということ
2010年の『ソーシャル・ネットワーク』(脚本ソーキン)は、トレント・レズナーとアッティカス・ロスに初のアカデミー作曲賞をもたらした一本でした。冷たいシンセと歪んだピアノで、ハーバードの寮から始まる“起業の熱”を鳴らしたあのスコアは、いまでも「2010年代の劇伴を変えた一枚」として語られます。
その続編のスコアを託されたのが、レズナー&ロスではなく、『グランド・ブダペスト・ホテル』と『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞を2度受賞したデスプラ。『英国王のスピーチ』『ハリー・ポッターと死の秘宝』、近年では『ジュラシック・ワールド/復活の大地』やギレルモ・デル・トロの『フランケンシュタイン』まで、オーケストラの繊細な手触りで知られる人です。エレクトロニックの代名詞だった前作から、管弦楽の職人へ。この“担当交代”そのものが、作品のトーンの宣言に聞こえます。
物語の舞台は前作から17年後。Facebookの元エンジニアで内部告発者のフランシス・ホーゲン(ミッキー・マディソン)が、ウォール・ストリート・ジャーナルの記者ジェフ・ホーウィッツ(ジェレミー・アレン・ホワイト)と組み、SNS企業の内実を明るみに出していく実話ベースのドラマです。マーク・ザッカーバーグ役はジェシー・アイゼンバーグからジェレミー・ストロングへ。若き起業家の物語だった前作に対し、今作は“巨大になった会社と、それを外から問う人たち”の物語。音楽の主語が変わるのも自然な流れかもしれません。
曲名から読む、17曲・約46分の構成
トラックリストを眺めるだけでも、かなり面白いんです。
- タイトル曲「The Social Reckoning」(3:17)で幕を開け、「Tomorrow's Headlines」「Online」「Likes」「Published」と、報道とSNSの語彙が並ぶ
- 「Jeff」「Frances Goes Home」と、二人の主人公に寄り添うような曲名も
- 「Unplug」「Sleepless」「Psych Damage」「Chaos」と、内部告発者の消耗を思わせるタイトルが続き、最長曲は「Waiting Room」(4:31)
- 終盤の「The Lament」(3:46)はデスプラとソプラノ歌手ルネ・フレミングの連名クレジット、締めくくりは「72 Hours」(3:55)
全17曲を合計すると約45分49秒。2分未満のキューが5曲あり、短い断片と4分前後の長尺曲が交互に現れる構成です。ソーキン作品らしい“台詞の速射”の下で、音楽はキューを細かく刻みつつ、要所で長く呼吸させる──そんな設計がトラックの尺からも透けて見えます。
ルネ・フレミングの声が置かれる意味
個人的にいちばん気になるのが「The Lament(哀歌)」です。デスプラとフレミングといえば、『シェイプ・オブ・ウォーター』で彼女が歌った「You'll Never Know」、さらに遡ればドリームワークス『ガーディアンズ 伝説の勇者たち』の歌曲でも組んできた間柄。テクノロジー企業の告発劇に、あえてオペラ歌手の“生身の声”を置く。デジタルの語彙で埋め尽くされたトラックリストの終盤に、いちばんアナログな楽器=人の声が登場するという対比は、デスプラらしいアイロニーにも、作品の結論そのものにも思えます。
前作のレズナー&ロスが「回路の中の熱」を鳴らしたのだとすれば、今作のデスプラは「回路の外にいる人間の体温」を鳴らそうとしているのかもしれません。日本での公開情報はまだ確認できていませんが、スコアはすでに配信で聴けます。前作のサントラと続けて聴き比べると、15年あまりで“SNSを描く音”がどう変わったのかが見えてくるはず。ぜひ「The Lament」まで通して聴いてみてください。