DCスタジオの新作ホラー・スリラー『クレイフェイス』の公開(米国10月23日、日本10月30日)を前に、音楽の全貌が先に届きました。スコアを手がけたのは、『西部戦線異状なし』でアカデミー作曲賞を受賞したフォルカー・ベルテルマン。WaterTower Musicからのサウンドトラック・アルバムは全23曲・約70分で、海外では10月16日にデジタル配信されます。前週の金曜には、先行シングルとして「Clayface Theme」がひと足早く公開されていました。

監督は『ウーマン・イン・ブラック』『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』のジェームズ・ワトキンス、主演はトム・リス・ハリス。脚本にはマイク・フラナガンとホセイン・アミニが名を連ねます。ハリウッドで俳優として上り詰めかけた青年が、犯罪組織のボスに顔を壊され、実験的な治療で“顔”を取り戻す代わりに正気を失っていく──バットマンの宿敵の誕生譚で、新DCユニバース初のR指定作品とされています。

“静けさの作曲家”が、DCの怪物を任された

ベルテルマンといえば、ピアノの弦に部品を挟んで音色を変えるプリペアド・ピアノの奏者「Hauschka(ハウシュカ)」として知られる人です。映画音楽では『LION/ライオン ~25年目のただいま~』(ダスティン・オハロランと共作)、『西部戦線異状なし』、『教皇選挙』などで、派手な旋律よりも音の質感と間(ま)で緊張をつくるスタイルを貫いてきました。『西部戦線異状なし』でハルモニウムを軸にした短い動機を何度も叩きつけ、戦場の非人間性を表現したのは記憶に新しいところです。

そんな作曲家がアメコミ映画の“怪物”を書く。ヒーローのファンファーレではなく、崩れていく人間の内側を鳴らすための起用だと考えると、これ以上ない人選に見えてきます。ちなみにワトキンス監督は日本のインタビューで、塚本晋也の『鉄男 TETSUO』を入念に観返したこと、そして『ゴジラ-1.0』から「物語の感情的な真実味」という点で強い影響を受けたことを明かしています。怪物を“感情のドラマ”として描く、という方向性は、音楽の側から見てもはっきりしています。

トラックリストが、ひとつの“顔の物語”になっている

23曲の曲名を順に眺めると、それだけでストーリーの骨格が浮かび上がります。

  • 「Pretty No More」「Mirror」「Your Face Changed」──美貌を失い、鏡と向き合う段階
  • 「Revenge Inside of You」「No Soft Story」「Not Fair」──内側で復讐心が育っていく段階
  • 「Rebirth」「Help Me」「Leap of Faith」──“再生”と、その先にある破滅か救いか

平均すると1曲あたり約3分。最長は「Help Me」の5分11秒、最短は「No Soft Story」の1分16秒で、短いキューを積み重ねて神経を削っていく構成です。一方で「Maybe a Smoothie」のような、思わず二度見する曲名が4分34秒もあるのも気になるところ。日常の会話の場面に、じわりと不穏さを混ぜ込んでいるのではないか──本編で確かめたくなる一曲です。

主題の“次”に、なぜ1976年のバラードなのか

このアルバムで一番の仕掛けは、2曲目です。1分55秒の「Clayface Theme」が終わると、すぐにシカゴの「If You Leave Me Now」のカバー(歌:ジャスミン・ジェスワ)が始まります。スコア盤でありながら、オリジナル曲以外の歌ものを冒頭近くに置くのはかなり大胆な曲順です。

「行かないで」と甘く歌う70年代のソフトロックは、ハリウッドで愛されることを夢見た主人公の“かつての自分”を象徴しているようにも聴こえます。直前の不穏なテーマと並べることで、甘さがかえって不気味に響く。これは、ベルテルマンのスコアが得意とする「美しさと恐怖の同居」を、アルバムの曲順そのもので示しているのかもしれません。

日本公開まであと2週間。劇場に行く前にスコアを聴いておくか、本編で初めて浴びるか。どちらを選んでも、“顔”をめぐる約70分の音の物語は、きっと観終わったあとに聴き返したくなるはずです。