10月7日、ちょっと胸がざわつく発表がありました。くずしろさんの漫画『雨夜の月』(講談社「コミックDAYS」連載)のTVアニメ化、その劇伴を担当するのが京都のインストゥルメンタル・バンドjizueだというのです。10月11日にはキャストとPV第1弾も公開。放送は2027年予定で、今日10月17日から徳島で始まる「マチ★アソビ vol.31」にも作品として参加します。
なぜざわつくのか。それは、この作品がピアノと「聴こえないこと」をめぐる物語だからです。幼いころからピアノを続けてきた金田一咲希と、後天的な病で聴力を失い、ピアノをやめてしまった及川奏音。高校で出会ったふたりの距離が少しずつ変わっていく青春ラブストーリーで、原作は既刊12巻。音が物語の中心にあるのに、ヒロインのひとりにはその音が届かない──劇伴にとって、これほど難しくて面白い題材はなかなかありません。
「音のない世界で、音楽をどう表現するか」
発表に合わせて出たメンバーのコメントが、この難しさをそのまま言葉にしています。ベースの山田剛さんは「音のない世界で音楽をどう表現するか、登場人物たちの感情や距離感にどう寄り添うか」と語り、ピアノの片木希依さんは「ピアノや“音”そのものが物語の中で大切な役割を持つ作品ということもあり、自然とピアノ曲も多くなりました」とコメント。ギターの井上典政さんは「素晴らしい作品に携われてとても光栄に思います」と喜びを伝えています。
ここがポイントだと思うんです。jizueはピアノ、ギター、ベースを核にしたバンドで、メンバーの中に「ピアノを弾く人」がいる。劇中で咲希が弾くピアノと、劇伴として流れるピアノが、同じバンドの同じ手触りから生まれる可能性があるわけです。劇中音楽と劇伴の境目が溶けていく作品は数あれど、バンドの“声”そのものがピアノである編成で、この題材に向き合うというのはかなり珍しい組み合わせではないでしょうか。
『星合の空』からドラマ劇伴を経て、ふたたびアニメへ
jizueは2006年に京都で結成。ジャズ、ポストロック、クラシックを行き来するインストで国内外にファンを持つバンドですが、劇伴の経歴も着実です。アニメでは2019年の『星合の空』でサウンドトラックを手がけ、その後はTBS日曜劇場『下剋上球児』(2023年)、TBS金曜ドラマ『9ボーダー』(2024年)と、ドラマ劇伴で存在感を強めてきました。
『星合の空』はソフトテニス部の少年たちの痛みや鬱屈を描いた作品で、jizueの音は感情を煽るよりも、登場人物の横に静かに立つタイプのものでした。今回のコメントにある「感情や距離感に寄り添う」という言葉は、まさにその延長線上にあるように聞こえます。ドラマで鍛えた“台詞の邪魔をしない温度感”が、今度は「聴こえない少女」と「弾き続ける少女」の間でどう機能するのか。
PV第1弾で聴ける“最初の一音”
公開されたPV第1弾ではすでにjizueの劇伴が使われていて、咲希と奏音の出会いと再会の場面が描かれます。字幕は17の言語・地域に対応しており、海外のファンにも最初から届けようという意思を感じます。キャストは金田一咲希役に佐伯伊織さん、及川奏音役に雨宮天さん。
スタッフは監督・牧野友映さん、シリーズ構成・脚本はヤスカワショウゴさん、音響監督は阿部信行さん、アニメーション制作はCompTown。「音」を扱う作品で音響監督と作曲家がどう“無音”を設計するのかも、放送までの大きな楽しみです。
- 作品:TVアニメ『雨夜の月』(2027年放送予定)
- 音楽:jizue(山田剛・片木希依・井上典政)
- 原作:くずしろ(講談社「コミックDAYS」連載、既刊12巻)
- アニメーション制作:CompTown
音楽の才能を描くアニメは多いけれど、「音楽が届かない人」の側から描くアニメはそう多くありません。だからこそ、劇伴が鳴る瞬間よりも、鳴らない瞬間にこそ耳を澄ませたくなる。jizueのピアノがその“沈黙”をどう縁取るのか、2027年が待ち遠しいです。