ディズニー・アニメーションの冬の新作に、ようやく“音”の名前が付いた。米国の映画音楽ニュースサイトFilm Music Reporterが10月16日、クリス・バワーズがウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの新作長編『Hexed』(邦題『ビリーと魔法のはじまり』)のスコアを手がけていると報じたのだ。米国公開は2026年11月25日、日本公開は12月4日。公開まで2か月を切ったタイミングでの判明で、すでに作曲作業はかなり進んでいるとみられる。

バワーズといえば、ドリームワークス『野生の島のロズ』でアカデミー賞作曲賞にノミネートされた人。あの映画を観て、ロボットのロズと雁の子キラリの関係に泣かされた人なら、この組み合わせにピンと来るはずだ。今回の物語もまた、“親と子”の物語なのだから。

落ちこぼれの少女と、うまくいかない母親の魔法の旅

『ビリーと魔法のはじまり』は、ディズニー・アニメーションの完全オリジナル作品。2025年8月の「Destination D23」で発表され、主人公は赤く染めた髪の衝動的な女子高生ビリー。自分に眠っていた魔法の力が暴走して退学になってしまった彼女が、魔女の王国「ヘクセ」で、関係のぎくしゃくした母親アリスと手を組み、魔女の世界を揺るがしかねない家族の秘密を追っていく——というお話だ。日本の配給告知では「ヒロイン史上初、現代の高校生が主人公」とうたわれている。

監督は『ウィッシュ』のファウン・ヴィーラスンソーンと『モアナと伝説の海2』のジェイソン・ハンド、共同監督にジョージー・トリニダード。声のキャストはビリー役のヘイリー・スタインフェルドを筆頭に、ラシダ・ジョーンズ、トレイシー・ウルマン、ウォルトン・ゴギンズ、スティーヴン・フライ、そしてディズニー長編アニメーションの声優に初挑戦となるジョディ・フォスター(邪悪な魔女の女王役)。ゴギンズはネコ科の相棒「ビート・ロジャー」を演じる。

ジャズピアニストから、“泣かせる”オーケストラの人へ

クリス・バワーズのキャリアは、ちょっと独特だ。もともとはジャズピアニストとして頭角を現し、そこから映画音楽へ。Film Music Reporterが挙げるフィルモグラフィーだけでも、

  • 映画:『グリーンブック』『ドリームプラン』『ホーンテッドマンション』『カラーパープル』『スペース・プレイヤーズ』『野生の島のロズ』、アニメ映画『GOAT』
  • ドラマ:『ブリジャートン家』『シークレット・インベージョン』『Dear White People』、『Spider-Noir』

と、実話ドラマからホラーコメディ、ミュージカル、マーベル、時代ロマンスまで振れ幅が大きい。さらに短編ドキュメンタリー『The Last Repair Shop』では共同監督としてアカデミー賞を受賞している。“作曲家”の枠に収まらない人なのだ。

そして劇伴ファンとして押さえておきたいのが、ディズニーとの縁。実写の『ホーンテッドマンション』でディズニー作品のスコアは経験済みだが、ディズニー・アニメーション・スタジオの長編を担当するのは今回が初めて。ピクサーではなく“ウォルト・ディズニー・アニメーション”の本流に、ジャズ出身の作曲家が入っていく構図は、それだけでワクワクする。

『ロズ』の延長線で聴きたい、母と娘のテーマ

ここからは期待込みの話。『野生の島のロズ』のスコアが心をつかんだのは、壮大なオーケストラの高揚感と、ピアノや細やかな弦がそっと寄り添う“育ての親”のぬくもりが、同じ一本の線でつながっていたからだと思う。ロズとキラリが少しずつ家族になっていく過程を、バワーズは大げさになりすぎない旋律で丁寧に追いかけていた。

『ビリーと魔法のはじまり』で描かれるのは、ぶつかり合う母と娘。しかも舞台は魔女の王国で、敵役はジョディ・フォスター演じる魔女の女王だ。いたずらっぽい魔法の暴走シーン、異世界ヘクセの不思議なスケール感、そして親子が和解へ向かう感情の山場——バワーズの得意分野がまるごと揃っている。ジャズで鍛えたリズム感が、魔法のドタバタにどんなスイングを持ち込むのかも気になるところ。

現時点では、サウンドトラックの発売情報や劇中歌の有無はまだ発表されていない。米国公開が11月25日なので、例年のディズニー作品の流れを考えると、公開前後に何らかの音源リリースが告知される可能性は高そうだ。日本では12月4日、年末の劇場で“新しいディズニーの音”を浴びることになる。『ロズ』で泣いた人は、ハンカチの準備をしておいていいかもしれない。