Keyが放つ“新しい風”の音、63曲で吹き抜ける
2026年7月29日、ゲームブランドKey(ビジュアルアーツ)のフルプライス最新作『anemoi(アネモイ)』のオリジナルサウンドトラックが発売された。「anemoi Original Soundtrack」はCD3枚組・全63曲、価格は3,960円(税込)、レーベルはもちろんKey Sounds Label(品番KSLA-0241〜0243)。ゲーム本編が2026年4月24日にPC向けで発売されたばかりで、そこからわずか3か月あまりでの“音のパッケージ化”ということになる。ノベルゲームのサントラとしては堂々たる分量で、Keyがこの作品の音楽にどれだけ手をかけたかが、まず枚数から伝わってくる。
『anemoi』は、『Summer Pockets REFLECTION BLUE』に続くフルプライスの恋愛アドベンチャー。主人公・速川麦(はやかわ むぎ)の視点で、はるか北の地・真澄町を舞台に、雄大な自然に囲まれた“唯一無二のスローライフ”を描く一作だ。近年のKeyを代表する『Summer Pockets』『終のステラ』のスタッフが参画していると聞けば、音楽にも期待するなというほうが無理な話だろう。
「泣きゲー」の看板を支えてきた、音の伝統
Keyといえば、ノベルゲームの枠を超えて『Kanon』『AIR』『CLANNAD』『リトルバスターズ!』とヒットを重ね、アニメ・劇場作品へと羽ばたいてきた老舗ブランドだ。そしてその物語を語るうえで、音楽の存在は絶対に外せない。Key Sounds Labelという専用レーベルをわざわざ抱え、BGMを“作品の主役級”として扱ってきた歴史こそ、Key作品が長年「泣ける」と言われ続ける最大の理由のひとつだと筆者は思っている。物語の一場面に寄り添うだけでなく、旋律そのものが記憶に焼き付いて、ゲームを閉じたあともずっと鳴り続ける──あの体験だ。
今回のサントラでも、その姿勢は徹底している。ブックレットには本作の作曲を手掛けたクリエイター陣によるライナーノーツが多数掲載され、トラックごとの狙いを読みながら音を追える構成になっているという。全63曲のタイトルを眺めると、「気ままに吹かれて」「追い風に乗って」「Dance with Gale」「風の軌跡」「風の中心に立って」と、“風”をモチーフにした曲名がずらりと並ぶ。作品名のanemoiがギリシャ神話の風の神々(アネモイ)に由来することを思えば、このこだわりようはまさに狙いどおり。BGM集でありながら、聴くだけで北の町を吹き抜ける風景が立ち上がってくる。
3組の歌姫が締める、スローライフの余韻
本サントラの大きな聴きどころが、ゲーム中のボーカル楽曲を全曲収めている点だ。歌うのはASCA、大原ゆい子、fhánaの3組。いずれもアニメ・ゲーム音楽シーンで確かな実績を積んだ顔ぶれで、この3組が同じ作品の“風景”を歌い分けると聞くだけで、作品世界の温度がなんとなく想像できてしまう。ジャケットは本作の原画を担当したNa-Gaの描き下ろし、さらにブックレットの表紙にも別の描き下ろしが使われるという凝りようで、パッケージとしての満足度も高い。
配信全盛のいま、あえてCD3枚組・全63曲という“物理”で束ねる意味を、筆者はむしろ前向きに受け止めたい。プレイ後にサントラを通しで聴く行為は、物語をもう一度なぞり直す儀式のようなものだ。ディスクを入れ替え、ライナーノーツをめくりながら、麦たちの過ごした真澄町の時間を反芻する──その体験ごと手元に残せるのが、Key Sounds Labelというレーベルが守り続けてきた価値なのだと思う。『anemoi』本編に触れた人はもちろん、まだ触れていない人にとっても、この一箱は“Keyの音楽”への格好の入り口になるはずだ。