10月10日、ベルギー・ゲントの映画祭「Film Fest Gent」で、第26回ワールド・サウンドトラック・アワード(WSA)の授賞式&コンサートが開かれました。映画音楽の作曲家たちが集まる街で毎年秋に行われる、いわば“劇伴のための賞”。このサイトでも先週、『アメリと雨の物語』の福原まりさんが「ディスカバリー・オブ・ザ・イヤー」にノミネートされたことを取り上げましたが、その結果も含めて、今年の受賞一覧を劇伴好きの目線で読み解いてみます。
年間最優秀映画作曲家は、4本を並べたダニエル・ペンバートン
メインの「Film Composer of the Year」はダニエル・ペンバートン。対象作は『プロジェクト・ヘイル・メアリー』『The Drama』『The Bad Guys 2』『Masters of the Universe』の4本です。ノミネートにはアレクサンドル・デスプラ、ジョニー・グリーンウッド、ヒドゥル・グドナドッティル、マックス・リヒターという、ここ数年の賞レースを総なめにしてきた顔ぶれが並んでいました。その中でペンバートンが選ばれたのは、正直かなり示唆的だと思います。
WSAのこの部門は“1作の名演”ではなく“その年の仕事全体”を評価する賞です。宇宙にひとり取り残された科学者のSFドラマから、アニメーションの怪盗コメディ、そして往年のヒーロー玩具の実写化まで。ジャンルも温度もまるで違う4本を同じ年に書き分けた幅の広さこそが、ペンバートンの真骨頂でしょう。『スパイダーマン:スパイダーバース』でヒップホップとオーケストラを継ぎ接ぎしてみせた人ですから、“なんでも鳴らせる”ことが評価された一年だったと言えそうです。
なお、ファン投票の「Public Choice Award」でもペンバートンの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はノミネートされていましたが、こちらはメキシコのストップモーション長編『Soy Frankelda』のケヴィン・スミザーズが受賞。『アバター:ファイアー・アンド・アッシュ』や『KPop Demon Hunters』といった大作を抑えての結果で、ファンの“推し”の熱量を感じさせます。
「ディスカバリー」はハンナ・ピール──福原まりは惜しくも
新しい才能に贈られる「Discovery of the Year」は、北アイルランド出身のハンナ・ピールが『Midwinter Break』で受賞しました。福原まりさん(『アメリと雨の物語』)、パリス・ハーリー(『The Chronology of Water』)、カンディング・レイ(『Sirat』)、サム・スレイター(『2000 Meters to Andriivka』)を抑えての受賞です。
『Midwinter Break』は、レスリー・マンヴィルとキアラン・ハインズが長年連れ添った夫婦を演じる英国ドラマで、舞台演出家ポリー・フィンドレイの長編映画デビュー作。配給元のFocus Featuresの記事によると、ピール自身のピアノとアリス・アレンのチェロの“対話”がスコアの軸で、そこに弦楽五重奏、ハープ、クラリネット、ソプラノが寄り添う編成。沈黙の多い映画なので、キューが「どこで入り、どこで抜けるか」に細心の注意を払ったそうです。派手さではなく、“音を置かない勇気”で勝ち取った賞なのかもしれません。
福原さんの受賞はなりませんでしたが、日本の作曲家が海外アニメーション長編の劇伴でこの部門の5人に残ったこと自体が大きな出来事。『アメリと雨の物語』の音楽にあらためて耳を傾けるきっかけになれば嬉しいです。
そのほかの受賞──トレヴァー・ジョーンズに功労賞、「Golden」が歌曲賞
- テレビ作曲家賞:ジェフ・ルッソ(『エイリアン:アース』『Cape Fear』『シタデル』シーズン2)
- 功労賞(Lifetime Achievement):トレヴァー・ジョーンズ
- ゲーム音楽賞:ニコラス・ガルシア(『Cthulhu: The Cosmic Abyss』)
- 最優秀オリジナル歌曲賞:「Golden」(『KPop Demon Hunters』)
- 若手作曲家による最優秀オリジナル作品賞:シャビエル・ドウラル・ガルシア
- ベルギー作品の最優秀スコア:マルガレート・エルマン(『A la cara』『Mallorca Confidencial』)
功労賞のトレヴァー・ジョーンズは、『ダーククリスタル』『ラビリンス/魔王の迷宮』、そして『ラスト・オブ・モヒカン』(ランディ・エデルマンと共作)などで知られる作曲家。ジム・ヘンソンのファンタジーで育った世代にとっては、あの不思議な森の音そのものと言っていい人です。ゲーム音楽賞にはノミネートに『Crimson Desert』『Dispatch』『Marathon』『UNBEATABLE』が並び、ゲーム音楽が映画祭の賞の中でしっかり存在感を示しているのも今年らしいところ。
そして「Golden」。アニメーション映画の挿入歌が、オリジナル・ソングのトップに立ちました。劇伴とアニメーションの距離がどんどん縮まっていることを、受賞一覧そのものが物語っているようです。来年のゲントに、また日本の名前が並ぶことを期待しましょう。