アラキスの砂が、また鳴りはじめました。12月18日に日米同時公開される『デューン 砂の惑星PART3』から、ハンス・ジマーによるサウンドトラックの第1弾シングル「Desert Chant」が10月20日(現地)、WaterTower Musicから各配信サービスで公開されました。クレジットはハンス・ジマーと、主人公ポール・アトレイデスを演じるティモシー・シャラメの連名。曲はシャラメのハミングで静かに幕を開け、やがて壮大な“戦の詠唱”へと膨れ上がっていきます。
主演俳優の「声」から始まるサントラ
まず驚かされるのは、シリーズのサントラ第1弾が、オーケストラの咆哮でも巨大なシンセの低音でもなく、主演俳優の鼻歌から始まるという設計です。シャラメといえば『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』で歌い、ボブ・ディラン伝記映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』では自ら歌とギターを披露してきた人。とはいえ今回求められているのは“歌唱力”というより、ポールという人物の内側から漏れ出してくるような声そのものでしょう。
『PART3』の原作はフランク・ハーバートの『デューン 砂漠の救世主』。前作から17年後、皇帝となったポールの統治が暗い帰結をもたらし、彼の予知のヴィジョンも曇りはじめている――そんな物語です。英雄が神格化され、その名の下で戦が広がっていく世界で、ひとりの人間の小さなハミングが、群衆の戦の詠唱へと飲み込まれていく。たった1曲の構成が、そのまま『砂漠の救世主』のテーマを先取りしているように聴こえるのが、この「Desert Chant」の面白さです。
「声」でできたデューンの音楽
思い返せば、ジマーのデューンはそもそも“声の音楽”でした。2021年の第1作では、ローア・コトラーらのヴォーカルを核に、既存のオーケストラ映画音楽とはまったく違う質感の砂漠を描き、ジマーに2度目のアカデミー賞作曲賞をもたらしています。『PART2』では、その主題を大きく発展させた結果、アカデミー賞の規定(既存曲の再使用の比率)により作曲賞の対象外と判断されたことも話題になりました。つまりデューンの音楽は、作品をまたいで同じ素材を育て続ける“三部作の連続体”として作られているわけです。
その流れで聴くと、「Desert Chant」が主演俳優の声を素材にしているのは象徴的です。フレメンの祈り、ベネ・ゲセリットの“声”、そして救世主となった男自身の声――声に力が宿る世界を描くシリーズで、最後の章の入口に置かれたのがポール本人のハミングだった、というのは偶然ではないはずです。
“同じ小説に心を動かされた2人のティーンエイジャー”
ジマーはこの曲について、10代の頃に自分の想像力に火をつけた小説へ戻ることであり、その小説こそがドゥニ・ヴィルヌーヴ監督と自分を結びつけたのだと語っています。「同じ小説に心を動かされた2人のティーンエイジャーは、いずれ必ず出会い、創作の兄弟になる」という言葉は、三部作の完結を前にしたファンにはなかなか沁みるコメントです。さらに「デューンの仕事の美しさは、若い頃の想像力に満ちた時間へ自分を連れ戻してくれることだった」とも。
注目点を整理しておきます。
- 配信:「Desert Chant」はサウンドトラック『Dune: Part Three (Original Motion Picture Soundtrack)』からの第1弾シングル。レーベルはWaterTower Music
- 映画:監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ、脚本はヴィルヌーヴとブライアン・K・ヴォーンの共同。12月18日に劇場・IMAXで公開(日本も同日)
- ジマーの冬:HBOのドラマ版『ハリー・ポッター』の音楽も担当しており、同作は12月25日に配信開始予定。ライブツアー「Hans Zimmer Live」もアジア・オーストラリアを回っている最中です
完結編のスコアに何を期待するか
アルバム全体の発売日や収録曲はまだ明らかになっていませんが、第1弾がこの曲だったことで、方向性はかなりはっきり見えてきました。『PART2』までで築かれた砂漠の音響は、おそらく今回、救世主の“栄光”ではなく“代償”を鳴らす方向へと舵を切るはずです。ハミングが戦の歌に変わるまでの数分間に、三部作の終着点が凝縮されている――そう思って聴くと、公開までの2か月がかなり長く感じられます。まずは配信で、ヘッドホンの音量を少し上げて、最初のハミングの息づかいから聴いてみてください。