11月6日、インド映画史上最大級のプロジェクトが世界同時公開を迎えました。ニテーシュ・ティワーリー監督の二部作『Ramayana』の第1部です。音楽を手がけたのは、A・R・ラフマーンとハンス・ジマー。『スラムドッグ$ミリオネア』でアカデミー賞を手にしたインド映画音楽の巨人と、『ライオン・キング』『インターステラー』『DUNE』のジマーが、ひとつの叙事詩を一緒に鳴らすことになりました。公開に先立つ10月21日ごろには、5曲入りのサウンドトラックEPがSuper Cassettes Industries(T-Series)から配信されています。

Wikipediaの作品ページでは、ジマーにとってこれが“本格的な”インド映画デビューだと整理されています。古代インドの二大叙事詩のひとつを、ハリウッドのど真ん中にいる作曲家がどう鳴らすのか。劇伴ファンとしては、公開前から気になって仕方がなかった組み合わせです。

どんな映画なのか:二部作・総予算約4,000クロール

ラーマ役はランビール・カプール、シーター役はサーイー・パッラヴィ、魔王ラーヴァナ役はヤシュ(ナミット・マルホートラとともにプロデューサーも兼任)、ハヌマーン役はサニー・デーオール、ラクシュマナ役はラヴィ・ドゥベー。VFXは『DUNE』シリーズなどで知られるDNEGが担当し、共同製作にも名を連ねています。第2部とマーケティング費用を合わせた予算は約4,000クロール(約4.2億ドル)とされ、インド映画史上もっとも高額な作品になる見込みだと伝えられています。

インドでの公開は当初、ディワリに合わせた11月8日が予定されていましたが、2日前倒しされて全世界同日の11月6日になりました。北米ではソニー・ピクチャーズが配給しています。なお、日本での公開情報は現時点では確認できていません。

EPの5曲を並べると、分担が透けて見える

Film Music Reporterが伝えたEPの収録曲は次のとおりです。

  • Jai Jai Ram(5:20):A・R・ラフマーン、シュレヤ・ゴーシャル、アリジット・シン、クマール・ヴィシュワス
  • Ravana Tandav(3:14):A・R・ラフマーン、ヴィシャール・ダドラーニー、クマール・ヴィシュワス
  • Sita's Aspiration(2:42):A・R・ラフマーン、A・R・アミーンほか
  • Jai Jai Ram (Orchestral)(3:02):ハンス・ジマー、A・R・ラフマーン
  • Rama Theme(2:27):ハンス・ジマー、A・R・ラフマーン

前半3曲はラフマーンの名義で、詞はすべて詩人クマール・ヴィシュワス。ラーマ、ラーヴァナ、シーターという主要人物にそれぞれ“歌”が与えられています。一方、後半2曲はジマーとラフマーンの連名による器楽曲です。歌はラフマーン、スコアは二人の共作という、インド映画らしい分業がそのままEPの曲順になっているわけです。

個人的にいちばん面白いと思ったのは、「Jai Jai Ram」が歌版とオーケストラ版の2回入っていることです。インド映画では、ヒット曲のメロディを劇伴のなかで何度も引用して、物語の“主題”として育てていくのがよくある手法です。同じ旋律をシュレヤ・ゴーシャルとアリジット・シンという当代屈指の歌手に歌わせ、さらにジマーの手を経たオーケストラ版でも鳴らす。ラフマーンの歌がそのままスコアのライトモチーフになる構造が、たった5曲のEPからでも読み取れます。歌のない場面でも、観客の耳には歌詞が聞こえている。そういう劇伴の作り方です。

「13回作り直して、2つ目に戻る」──1年半かけた公開順

音楽の公開は、かなり長い時間をかけて段階的に進められてきました。2025年7月3日に「Ramayana (The Introduction Theme)」の短縮版が出て、2026年4月には「Rama Theme」が単独で配信。9月14日、ガネーシャ・チャトゥルティの日に合わせて「Jai Jai Ram」が公開されています。T-Seriesは2026年7月、二部作の音楽権を約75クロールで取得したと報じられました。Wikipediaによれば、ジマーが最初に作ったテーマ的なサウンドスケープに、あとからサンスクリットの詩句が重ねられたそうです。

The Hollywood Reporter Indiaのインタビュー(10月27日更新)で、ラフマーンは制作の過酷さを語っています。13パターンも作り直した末に、2つ目や1つ目の案に戻ることもあったこと。ロサンゼルス、ロンドン、ブダペスト、ムンバイ、チェンナイを行き来しながら録音を続けたこと。最後の3か月は睡眠が3〜4時間の日もあったこと。二人は2009年に共通のエージェントを通じて知り合っていて、ジマーのスタジオは「とてもフレンドリーな雰囲気だった」とも話しています。17年越しの初共作です。

聴きどころ:ジマーの“低さ”と、ラフマーンの“節回し”

ジマーといえば、『DUNE』の砂漠の声や、『インターステラー』のパイプオルガンのように、低音と音響の“厚み”で世界をつくる人です。ラフマーンは、南インドの古典音楽からエレクトロニカまでを自在に行き来しつつ、最後はかならず口ずさめるメロディに着地させる人。今回のEPでいえば、「Rama Theme」と「Jai Jai Ram (Orchestral)」の2曲に、その両方の手ざわりがどう混ざっているかを聴き比べるのがいちばんの楽しみだと思います。

二部作の物語はまだ半分。今回のEPは、言ってみれば叙事詩の“序章”の音。フルスコアがどんな規模で出てくるのか、そして日本で劇場公開されるのかどうか。続報を待ちたいと思います。