映画音楽の賞レースが、今年もいよいよ動き出しました。11月2日、第17回ハリウッド・ミュージック・イン・メディア・アワード(HMMA)のノミネートが発表されています。授賞式は11月18日(水)、ハリウッドの老舗ライブハウス「Avalon Hollywood」で行われる予定です。

HMMAはアカデミー賞の前哨戦のひとつとして見られている賞で、映画だけでなく、テレビ、ドキュメンタリー、短編、ゲーム、トレーラー音楽まで、部門がとにかく細かいのが特徴です。部門が多いぶん、ハリウッドの大作だけでなく、ふだんはニュースになりにくい名前も拾われます。今回はその“細かさ”のおかげで、アニメやゲームを入口に劇伴を聴いてきた人にもなじみのある名前がいくつか見つかりました。

まずは全体像:今秋GBmediaで追ってきたスコアがずらり

AwardsWatchの集計によると、映画関連部門でもっとも多い3ノミネートを獲得したのは『Behemoth!』『The Odyssey』『Michael』『Brother Verses Brother』『Linda Perry: Let It Die Here』の5作品。作曲家個人ではダニエル・ペンバートンとミナ・サミーが4ノミネートで並び、クリス・バワーズが3ノミネートで続きます。

ペンバートンは『Project Hail Mary』『The Drama』、ドラマ『Slow Horses』、そしてデヴィッド・バーンとの共作曲「Let Me Sell You a Dream」で4つ。バワーズはディズニー・アニメーション『Hexed(ビリーと魔法のはじまり)』、ドラマ『Spider-Noir』、ドキュメンタリー『The Eyes of Ghana』の3つです。

ラインナップを眺めていて楽しいのは、この秋GBmediaで取り上げてきた作品がかなりの数並んでいることです。

  • 長編映画スコア部門:9人の作曲家による『Behemoth!』(The Behemoth! Collective名義)、カーター・バーウェル『Wild Horse Nine』、ルドウィグ・ゴランソン『The Odyssey』など
  • SF/ファンタジー映画スコア部門:ハンス・ジマー『Dune: Part Three』、ジョン・ウィリアムズ『Disclosure Day』、ジェームズ・ニュートン・ハワード『ハンガー・ゲーム』新作、マイケル・ジアッキーノ『Spider-Man: Brand New Day』など
  • ホラー/スリラー映画スコア部門:フォルカー・ベルテルマン『Clayface』、ダニー・エルフマン『Send Help』など
  • アニメーション映画スコア部門:ダリオ・マリアネッリ『Wildwood』、クリス・バワーズ『Hexed』、ブライアン・タイラー『The Super Mario Galaxy Movie』、ランディ・ニューマン『Toy Story 5』、スティーヴン・プライス『Coyote vs. Acme』など7作品

アニメーション部門に『マリオ』の映画が入っているのは、ゲーム音楽ファンとしてもちょっと嬉しいところです。

モバイルゲーム部門に、ケビン・ペンキンとモンハン

本題はここからです。「モバイルゲームのスコア/楽曲」部門に、ケビン・ペンキンの名前があります。対象は『Dear Van Gogh』。『風ノ旅ビト』のthatgamecompanyが手がける『Sky 星を紡ぐ子どもたち』の中で、7月17日から配信されている特別企画で、ゴッホの名画を3Dで再現した世界を歩きながら、フィンセントと弟テオの手紙をたどっていく体験型コンテンツです。

ペンキンといえば、日本のアニメファンには『メイドインアビス』の作曲家としておなじみでしょう。深い穴の底へ降りていく冒険を、壮大さと不穏さが入り混じった音で鳴らした人が、今度は絵の具の筆致の中を歩く旅に音をつけた。題材の“手ざわり”を音に置き換えるのが得意な人なので、相性のよさは想像しやすいところです。

同じ部門には『Monster Hunter Outlanders』(Tadayoshi Makino、Yuko Komiyama)も入りました。モンハンの名を冠したモバイルタイトルが、ハリウッドの賞のリストに並んでいる。シリーズの“狩猟音楽”が海外でもきちんと聴かれている証拠のひとつと言っていいと思います。ほかに『Wuthering Waves(鳴潮)』『Reverse: 1999』などアジア発のタイトルが目立つのも、この部門ならではです。

トレーラー部門に陣内一真、ドラマ部門に『神の雫』

「トレーラー音楽デザイン」部門には、陣内一真(Kazuma Jinnouchi)の『Guild Wars 3』が入っています。ArenaNetは7月30日に陣内を『Guild Wars 3』のリード作曲家として発表しており、そこでは『Halo』『Star Wars』『メタルギア』『攻殻機動隊』に関わってきたBAFTAノミネート作曲家として紹介されていました。同じチームには『リズム天国』のAsuka Ito、前作『Guild Wars 2』のマクレイン・ディーマーも参加しています。日本の作曲家が、欧米の大型MMOの“顔”になる音を任されている。そのことがトレーラーの段階で賞に拾われたのは、なかなか象徴的です。

そして「テレビ/リミテッドシリーズ(外国語)」部門には、イアン・アーバーの『Drops of God(神の雫)』シーズン2。日本の漫画を原作に、フランス語・英語・日本語が飛び交う国際ドラマです。原作の国の言葉が“外国語部門”の一角を占めているわけで、これもHMMAの細かさが生んだ面白い光景でしょう。

結局、どこを見ればいい?

正直に言えば、HMMAで日本の劇伴作家がメイン部門に並ぶ光景はまだ見られていません。ただ、今回のリストを見ると、日本のアニメやゲームと縁のある作曲家・作品が、モバイルゲーム、トレーラー、外国語ドラマといった“周辺”の部門にしっかり入り込んでいます。賞の中心はいつも大作映画ですが、新しい流れが最初に見えるのは、たいてい端のほうです。

11月18日の授賞式では、ペンキンの筆致の音楽、陣内の大作MMOの音、そしてモンハンの狩猟音楽が、ハリウッドの名だたるスコアと同じテーブルに並びます。結果がどうであれ、劇伴好きとしては「端の部門」の発表を見逃さないようにしたいところです。