西尾維新原作、シャフト制作のアニメ『〈物語〉シリーズ』。その「ファイナルシーズン」にあたる『憑物語』『終物語』『続・終物語』のオリジナルサウンドトラック3タイトルが、2026年7月1日に一挙発売された。同日には各作品の「劇伴音楽集」の配信もスタート。『憑物語』の放送が2014年末、『終物語』が2015年だから、実に10年以上の時を経て、あの会話劇を支えてきた音楽がまとまったかたちで手に入るようになったわけだ。これはもう、事件と言っていい。
3タイトル・劇伴131曲の一挙音源化
今回発売されたのは、『憑物語 Original Soundtracks』(CD2枚組・全30曲)、『終物語 Original Soundtracks』(CD4枚組・全71曲)、『続・終物語 Original Soundtracks』(CD2枚組・全30曲)の3タイトル。劇伴だけで計131曲という物量だ。しかも各タイトルにはシャフト描き下ろしのジャケットが付き、『憑物語』は斧乃木余接、『終物語』は忍野扇、『続・終物語』は老倉育と、それぞれの物語の“顔”が飾る。このキャラクター選定のセンスがまた憎い。扇が『終物語』の表紙に立つ意味は、本編を最後まで観た人なら誰もが頷くはずだ。
CDと同日に配信が始まった「劇伴音楽集」は、劇伴に加えてオープニングテーマも収録。『終物語 劇伴音楽集Ⅱ』はOP7曲+劇伴71曲の全78曲という決定版的な内容になっている。これまで物語シリーズの劇伴は、映像ソフトの特典CDなどでしか触れにくい存在だった。それがサブスクで、いつでも、どこでも聴ける。この意味は大きい。
会話劇を支える劇伴──羽岡佳というバトン
物語シリーズの音楽といえば、初期『化物語』を手がけた神前暁の名前を思い浮かべる人が多いだろう。だがファイナルシーズンの劇伴を一手に担ったのは、シリーズ途中から神前のバトンを受け継いだ羽岡佳だ。
物語シリーズという作品は、アニメとしてはかなり特殊な構造をしている。画面の大半が会話で進み、アクションは希少。つまり劇伴が「場の空気」と「言葉のテンポ」を規定する度合いが、普通のアニメよりずっと高い。羽岡佳の劇伴は、ジャズやラウンジ、室内楽的な編成をベースに、キャラクター同士の掛け合いの“間”を絶妙に泳ぐ。音楽が言葉を邪魔せず、しかし確実に感情の温度を操作している。怪異の不穏さ、青春の気恥ずかしさ、そして時折差し込まれる喪失の痛み。あの饒舌な会話劇が10年経っても色褪せないのは、台詞と映像だけでなく、その下でずっと鳴っていた音楽の設計が精密だったからだと思う。
今回の一挙音源化は、その設計図を初めてじっくり眺められる機会でもある。劇伴単体で聴くと、本編では台詞の裏に隠れていた対旋律や音色の細部がくっきり浮かび上がる。「このシーンの緊張感、この音が作ってたのか」という発見が、131曲ぶん待っている。
フィジカルと配信、二正面作戦の意味
興味深いのは、CDと配信を同日に展開してきた点だ。描き下ろしジャケットや店舗特典で「所有する喜び」を担保しつつ、配信で「いつでも聴けるアーカイブ」も開放する。近年、旧作アニメの劇伴がまとめてストリーミング解禁される流れが加速しているが、今回はその中でも理想的な形のひとつだろう。劇伴は本編とセットで消費されて終わり、ではなく、独立した音楽作品として長く聴かれるべきものだ。この二正面作戦は、劇伴文化の裾野を広げる一手として素直に歓迎したい。
なお同日には、最新シリーズ『〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン』のオープニングテーマ4曲(「icecream°」「caramel ribbon cursetard」「Suicidal Tendency」「万死のテーマ」)も配信開始。過去の集大成と現在進行形が同じ日に揃うあたり、物語シリーズの音楽はまだまだ“続く”ようだ。まずは『終物語』の4枚組から、あの言葉の洪水の底に沈んでいた音を拾い上げてみてほしい。