「異文化との出会い」を描く物語には、たいてい二つの音がいる。剣を交える戦いの音と、言葉が通じないまま心が近づいていく日常の音だ。2026年春クールのTVアニメ『姫騎士は蛮族の嫁』は、まさにその両方を抱えた作品で、その劇伴を一手に引き受けたのが作曲家・桶狭間ありさだった。7月1日、彼女のスコアを凝縮したオリジナルサウンドトラックがCD2枚組で発売された(品番FBAC-263/税込3,300円)。異文化交流ファンタジーというジャンルは、音楽的にはかなり難しい。ともすれば「戦い=勇壮」「日常=ほのぼの」という記号的な処理に落ち着いてしまうからだ。だが本作のサントラは、その安易さを注意深く避けている。

「呪術」を鳴らした作曲家、単独で挑む

桶狭間ありさは1993年、愛知県桶狭間の生まれ。劇伴作曲家のアシスタントを約6年務めたのち、2020年から本格的に作曲・編曲家として歩み始めた。名前を広く知らしめたのは、堤博明・照井順政とともに手がけたTVアニメ『呪術廻戦』のサウンドトラックだろう。以降も『お兄ちゃんはおしまい!』『薬屋のひとりごと』といった話題作、さらに実写ドラマ『大奥』『ハヤブサ消防団』へと活動を広げてきた。シンセを駆使した派手な楽曲から、繊細な心情表現まで振れ幅が広いのが彼女の持ち味だ。チームの一員として大作を支えてきた彼女が、今回は一本の作品の音世界をまるごと預かった格好になる。共作では埋もれがちだった作家性が、単独クレジットの現場でどう立ち上がるのか——そこが本作を聴くうえでの最初の楽しみになる。

戦いと日常、二枚に分けて詰め込む

公式が「戦いと日常、心の交流を彩る劇伴を凝縮」と語る通り、本作のサントラは異文化交流ドラマの起伏をそのまま音の振れ幅に置き換えている。蛮族の集落で鳴りそうな土着的リズムや打楽器、姫騎士セラフィーナの内面をなぞる旋律、そして戦闘での高揚——CD2枚組というボリュームは、こうした異なる質感を切り捨てずに収めるための器でもある。「派手なアクション」と「静かな感情」を同じ作曲家の筆で行き来できるのは、複数ジャンルを横断してきた桶狭間ならではの強みだ。とりわけ劇伴作品では、同じ登場人物のテーマが場面ごとに編成や調を変えて何度も顔を出す。二枚組をまとめて聴くと、そうした「変奏」の手つきが見えてきて、断片的にアニメ本編で耳にしていた旋律が、ひとつの音楽的な設計図の上に並んでいたことに気づかされる。

「桶狭間」から「蛮族」へ

思えば面白い巡り合わせだ。戦国最大級の奇襲戦「桶狭間の戦い」で知られる土地の名を冠した作曲家が、剣と魔法の異文化衝突を描くファンタジーを鳴らす。もっとも本作のテーマは戦いそのものより、「ありのままの自分こそ唯一無二の美しさ」という多様性の肯定にある。OPテーマ「BEAUTIFUL」を歌う前島麻由も、EDテーマ「シルベキコト」のsajou no hanaも、その主題を口をそろえて語っていた。桶狭間ありさの劇伴は、剣戟の迫力と、異なる者同士が歩み寄る温度の両方を引き受ける。

「わかり合う瞬間」の音を探して

劇伴は本編に寄り添う存在だが、サントラという形で切り出された瞬間、それは単独で聴くに耐える一枚のアルバムへと姿を変える。二枚組をじっくり通して聴けば、この物語が本当に鳴らしたかったのは戦いの音ではなく、わかり合う瞬間の音だったと気づくはずだ。派手なバトルの高鳴りよりも、言葉を超えて相手の懐に踏み込む一歩、その静かな緊張と解放にこそ、桶狭間ありさの筆はいちばん熱を込めている。ファンタジー作品のサントラとして、そして一人の作曲家の“単独名義”の集大成として、本作は二重の意味で聴きどころの多い一枚に仕上がっている。