「のんびり」を音にするのは、実はいちばん難しい。派手な戦闘も悲壮な別れもない世界で、それでも退屈させずに耳を惹きつけ続ける——スローライフ系ファンタジーの劇伴には、そんな逆説的な難題がつきまとう。2026年6月24日に発売されたTVアニメ『異世界のんびり農家2』のオリジナルサウンドトラックは、その難題に真正面から挑んだCD2枚組・全51曲の力作だ。そして音楽を手がけたのが、あの高梨康治とヨハネス・ニルソンのコンビだと知って、思わず二度見してしまった。NARUTOやプリキュアで鳴らしてきたハードロックの申し子が、なぜ畑を耕す物語を鳴らすのか。
畑に響く、ハードロックの遺伝子
高梨康治は1963年、東京生まれ。1980年代にはHR/HMバンド「Hellen」のキーボーディストとして活動し、90年代には日本ファルコムのゲーム音楽をアレンジするJ.D.K.BANDに参加した、根っからのバンドマンだ。劇伴作曲家としての代表作は『NARUTO -疾風伝-』『FAIRY TAIL』、そして『フレッシュプリキュア!』から『スマイルプリキュア!』へと続くプリキュアシリーズ、さらに『ゲゲゲの鬼太郎』第6期と、いずれも「熱量」で押し切る作品ばかり。ハードロックとオーケストラを溶接するような、あの分厚いサウンドが持ち味である。その男が、剣も魔王もほとんど出てこない「農業スローライフ」を鳴らす——このミスマッチこそ、本作サントラ最大の見どころだ。
51曲が設計する「のんびり」
ふたを開けてみれば、答えは明快だった。高梨&ニルソンは「のんびり」を、脱力ではなく緻密な設計として鳴らしている。2枚のディスクにまたがる全51曲は、朝の畑を照らす木漏れ日のようなアコースティックな小品から、村に活気が戻る祝祭的なアンサンブルまで、細かく表情を描き分ける。ファンの間で語り草となった第1期の名曲「葡萄踏みの唄」は“2026年version”として新録され、続編ならではのご褒美になっている。OPテーマ「It's a beautiful story」、EDテーマ「Sunny Steps」のTVサイズや、OPのソロ・バージョンも収録した。発売はポニーキャニオン、品番はPCCG-2516、税込3,850円の2枚組という堂々の仕様だ。派手なリフやキメの一撃で客席を沸かせる音楽とは違い、ここで試されているのは“心地よさをいかに長く持続させるか”という、まったく別種の技術である。畑仕事も、村の四季も、キャラクターたちの他愛ない会話も、すべてが穏やかに流れていく本作では、劇伴が前に出すぎれば興ざめだし、引きすぎれば画が寂しくなる。その絶妙な距離感を51曲かけて微調整していく作業こそ、ベテランならではの職人芸と言っていい。
世界へ出た劇伴作家の、次の一手
この落差を面白がれるのは、高梨のいまの立ち位置を知っているからでもある。彼はJASRAC国際賞を8度受賞し(2013・2014・2017・2020〜2024年)、2024年には世界進出を見据えたプロジェクト「YASUHARU TAKANASHI's Far East Groove」を始動。2025年にはスペインの「Rock Imperium Festival 2025」に出演しEUツアーを敢行、日本のアニメ劇伴作曲家として大型海外ロックフェスに立った初のケースとなった。ステージで拳を突き上げる作家が、スタジオでは畑の音を丁寧に紡ぐ。その振れ幅の大きさこそが、いまの高梨康治の強さなのだろう。『異世界のんびり農家2』のサントラは、“のんびり”の裏にどれだけの技術が隠れているかを教えてくれる一枚だ。