7月クールの土曜22時に、あの音が戻ってきた

2026年7月11日、日本テレビ系「土曜ドラマ」枠で『告白-25年目の秘密-』が始まった。松村北斗(SixTONES)にとって初のテレビドラマ単独主演作。25年前の誘拐事件と、その周囲に張り巡らされた家族の秘密をめぐるサスペンスだ。主題歌はSixTONESの「マイオンリー」、脚本は渡邉真子。そして音楽を担当するのが、得田真裕である。

この名前を見た瞬間に「ああ、あの音か」と身構えた人は、たぶん相当な劇伴好きだ。得田真裕は、ここ10年の日本のテレビドラマにおいて、もっとも「作品の呼吸に合わせて音を差し込む」ことに長けた作曲家のひとりだからである。しかも彼が担当してきた作品のリストを眺めると、その振れ幅の大きさに驚かされる。『アンナチュラル』の緊迫した法医学ラボと、『silent』の静かな街の空気を、同じ人間が書いているのだ。

鹿児島から、菅野祐悟の門下へ

得田真裕は1984年、鹿児島県の生まれ。5歳からピアノに親しみ、中学ではギター部、高校では吹奏楽部という、いかにも「音の現場を渡り歩いてきた」経歴を持つ。長崎大学教育学部の芸術文化コースに進み、3年次から作曲を専攻。在学中からCM音楽やバンド活動をしていたという。

面白いのは、大学卒業後にすぐ音楽の道へ一直線ではなかったことだ。神戸のゲーム会社で1年半ほど働いたのち上京し、作曲家・菅野祐悟に師事する。劇伴の世界に入るのは2013年、NHKスペシャル『“世界最強”伝説 ラスベガス 世紀の一戦』で音楽を初めて担当してからだ。以降、NHKスペシャルの各シリーズを支えながら、民放ドラマへと活動を広げていった。

ドキュメンタリーで鍛えられた作曲家、という補助線を引くと、彼の音の性格が見えてくる。NHKスペシャルの音楽は、映像が語る事実を邪魔してはいけない。かといって無味乾燥では画面が死ぬ。「主張しすぎず、しかし確実に体温を渡す」という綱渡りを、得田は10年以上続けてきたわけだ。

ふたつの得田真裕──緊張と、日常

その蓄積が結晶したのが、2018年の『アンナチュラル』だろう。不自然死究明研究所という舞台の、理知的で少し冷たい手触り。そこに差し込まれるリズミックなアンサンブルは、事件の謎解きを煽るのではなく、働く人々の速度を刻んでいた。同じ座組が生んだ2020年の『MIU404』でも、彼の音は「走る車のスピード」と「二人の刑事の間の温度差」を同時に鳴らしていた。そして2024年公開の映画『ラストマイル』で、この系譜はひとつの頂点に達し、得田は第48回日本アカデミー賞の優秀音楽賞を受けている。

一方で、もうひとりの得田真裕がいる。2022年『silent』、2023年『いちばんすきな花』、2024年『海のはじまり』──言葉にならない感情が主役になるドラマ群だ。ここでの彼の音は、驚くほど引き算されている。ピアノとストリングスの薄い層、間を恐れない書法。台詞のない数秒間を、音楽が「気まずさ」ではなく「余白」に変えてしまう。この2系統を同じ精度で行き来できる作曲家は、そう多くない。

  • 緊張系:『アンナチュラル』『MIU404』『インビジブル』『ラストマイル』
  • 日常・感情系:『silent』『いちばんすきな花』『海のはじまり』『放課後カルテ』
  • 特撮・アニメ:『ウルトラマンデッカー』(末廣健一郎との共作)、『プラチナエンド』ほか

『告白』に必要な音とは何か

そう考えると、『告白-25年目の秘密-』の音楽が得田真裕である意味は、かなりはっきりしてくる。この作品は誘拐事件をめぐるサスペンスでありながら、核にあるのは「家族が25年かけて隠したもの」という、きわめて私的な感情の物語だ。つまり、緊張系と日常系のちょうど中間を要求される。事件を追う推進力と、食卓のあたたかさの嘘っぽさ。その両方を同じ音色圏で鳴らせる人でないと、作品が二つに割れてしまう。

放送はまだ序盤で、劇伴の全体像は見えていない。サウンドトラックの発売情報も現時点では出ていない。それでも、第1話から2話にかけての「疑いが芽生える瞬間」の鳴り方を聴いていると、あの引き算の作法が確実に生きているのがわかる。派手なサスペンス・スティンガーで驚かせるのではなく、和音をひとつずらすだけで画面の意味を変えてしまう。あの手つきである。

7月クールのドラマ劇伴は、毎年もっとも作曲家の個性が試される戦場だ。今期の土曜22時は、ぜひ音に耳を澄ませながら観てほしい。25年分の秘密は、たぶん台詞より先に、音が漏らしている。