「音楽監督」という肩書きが置かれた意味
TVアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』のオリジナルサウンドトラックが、2026年9月9日に2枚組CDでリリースされる。初回生産分は特殊パッケージ仕様、ジャケットはサイエンスSARU監修のもとtarou2が新規に描き下ろした。同日から各配信・ダウンロードサービスでも解禁され、アナログ盤(2LP)も別途用意される。
だが、今回いちばん興味深いのは発売形態ではない。クレジットの構造だ。この作品には「音楽監督」という役職が明示されており、そこに座っているのが岩崎太整。そして音楽そのものは、岩崎に加えて小西遼、YUKI KANESAKAの3名による共同体制で作られている。作曲家が1人いて全部書く、という日本の劇伴の標準形から、はっきりと外れている。
1989年に士郎正宗が原作を発表して以来、押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)をはじめ、この作品群は映像の側でも音の側でも「その都度まったく違う答え」を出してきたシリーズだ。川井憲次の民謡的コーラス、菅野よう子のエレクトロニカとロックの混淆——「攻殻の音」に定型はなく、あるのは毎回ゼロから世界観を設計し直すという伝統のほうである。今回の3人体制は、その伝統のもっとも新しい形と言っていい。
3人の出自が、そのまま音の幅になる
面白いのは、集められた3人の立ち位置がまるで違うことだ。
- 岩崎太整——映画『竜とそばかすの姫』で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。映画『TOKYOタクシー』の音楽も手掛ける、劇場作品の中核にいる書き手。
- 小西遼——2025年大阪・関西万博の開会式で音楽監督を務め、Chara+YUKI、Mrs.GREEN APPLE、TOMOOらのサウンドプロデュースも担う。ポップスと現代的なアンサンブルの両側から来ている。
- YUKI KANESAKA——アメリカを拠点に活動し、TVアニメ『Dr.STONE』の音楽で知られる。ハリウッド的なスコアリングの文法を持ち込める人材。
劇伴を複数人で分担すること自体は珍しくない。ただ多くの場合、それは「物量をさばくための分担」だ。今回のように、映画音楽・ポップス/現代音楽・海外スコアリングという明確に異なる三つの出自を並べる編成は、分担というより意図的な混成に見える。そして音楽監督が置かれているということは、その混成を最後に一本の線へまとめる責任者が定義されているということでもある。3人が書いても作品の音が散らからないのは、この設計のおかげだろう。
「攻殻」の音は、いつも時代のインフラを映してきた
攻殻シリーズの音楽が面白いのは、いつだって「その時代に人間が音楽をどう作っていたか」の記録になっている点だ。1995年の劇場版は、生の合唱とサンプラーの境界が溶け始めた時期の音だった。『STAND ALONE COMPLEX』シリーズは、打ち込みと生バンドと歌モノが等価に並ぶ2000年代の感覚をそのまま持っていた。電脳と身体の境界を問う物語が、たまたま音楽制作技術の変化と同じ問いを共有してしまう——このシリーズは構造的にそうなっている。
だとすれば、2026年の攻殻が「国内映画音楽の書き手+ポップス/万博のプロデューサー+海外拠点の作曲家」という国境も職域もまたいだチームで作られているのは、いかにも今っぽい。制作がリモートで分散し、レコーディングもミックスも地理から切り離された時代の劇伴は、こういう形になる。ある意味で、この座組そのものが「攻殻的」だと言ってしまってもいい。
アナログ復刻の流れと、同じ場所で交差する
もうひとつ触れておきたいのは、2026年に入ってからシリーズの旧作サントラがまとめてアナログ化されていることだ。『STAND ALONE COMPLEX』シリーズのオリジナルサウンドトラック全5作品と『イノセンス』のサントラがLP化され、そして今回の新作サントラもCDと並行してアナログ盤(2LP)が用意される。
過去作が円盤の物理フォーマットへ戻り、新作も最初からアナログを想定して出る。攻殻という「もっともデジタルな物語」のサントラが、いま一番アナログな聴かれ方を用意されているというねじれは、皮肉というより素直に嬉しい。9月9日、2枚組のディスクに刻まれた「今の攻殻の音」が、どんな設計図を見せてくれるのか。まずは通しで一度、腰を据えて聴きたい。