10月1日、"視線が交わらない"青春がまた鳴り出す
月子のマンガを原作に、2026年4月からTBS系で放送された『氷の城壁』。その第2期が、2026年10月1日からTBS系28局・毎週木曜23:56枠で戻ってくることが発表された。公開されたティザービジュアルは、小雪・美姫・湊・陽太の4人がそれぞれ別の方向へ視線を投げ、決して交わらない――そんな不穏な空気を一枚に閉じ込めている。原作を知る人ほど「あの温度差がついに動き出すのか」と身構えるビジュアルだ。そしてこの繊細な青春群像に音を差し込むのが、第1期から続投する佐久間奏と田渕夏海のコンビ、劇伴制作は日音である。
コンビで挑む、二つの異なるルーツ
面白いのは、この二人が歩んできた道がまるで違うことだ。佐久間奏は1997年生まれの埼玉県出身。国立音楽大学附属高校から同大学の作曲専修へ進み、在学中は無調性音楽(現代音楽の技法)を軸に制作していたという、いわば"前衛"側の出自を持つ。その一方で、TBS『ラヴィット!』のタイトルサウンドロゴやBGM、ドラマ『ひだまりが聴こえる』(2024)や『彼女と彼氏の明るい未来』(2024)、NHK BSプレミアム『盤上の向日葵』(2019)など、お茶の間に流れる音も数多く手がけてきた。対する田渕夏海は1989年生まれの岡山県出身で、東京音楽大学の作曲指揮専攻・映画放送音楽コースという、いわば"劇伴の王道"を通ってきた作曲家。両者はすでに劇場版『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』で共同作曲を経験しており、『氷の城壁』はその相性を思春期のドラマに注ぎ込んだ仕事だと言える。
"無調"をくぐった耳が、思春期の温度を測る
青春群像劇の劇伴は、実はとても難しい。派手な戦闘も魔法もない代わりに、沈黙・ためらい・言えなかった一言といった"間"そのものを音楽が支えなければならないからだ。ここで佐久間の現代音楽的なバックグラウンドが効いてくる、と筆者は睨んでいる。調性からわずかにずらした和音、解決しないまま宙に残る響き――それらは、視線が交わらない少年少女たちの「近いのに届かない距離」を、メロディで説明するより雄弁に描いてしまう。田渕のドラマ/映画音楽で培われた構成力がそこに骨格を与えれば、感情が暴走しすぎず、しかし確かに疼く。第1期で積み上げたその音の手触りが、10月からの第2期でどこまで踏み込むのか。ティザーの"交わらない視線"が音になる瞬間を、静かに待ちたい。
"二人体制"がいま増えている理由
ここ数年、テレビシリーズの劇伴を一人ではなく複数の作曲家で分担・共作する体制が目立ってきた。放送尺が長く、必要な楽曲数(キュー)が数十曲規模にふくらむ現場では、締め切りと物量を一人で背負うより、作風の異なる書き手が役割を分け合ったほうが引き出しが増える。佐久間奏と田渕夏海のように、片方が実験的な響きを、もう片方が堅牢な構成を担えるコンビは、まさにその理想形だ。日音という劇伴制作会社が二人をひとつのプロジェクトにまとめ、音の方向性を束ねている点も見逃せない。作曲家の名前が作品の"看板"として語られる時代に、こうしたチーム編成そのものが、劇伴の作り方が変わりつつあることの証でもある。第2期がどんなキュー・シートで組まれるのか、サントラ盤が出るなら誰のペンでどの場面が鳴っていたのかまで、追いかける楽しみは尽きない。