デスゲームものの劇伴、と身構える人ほど、この一枚を聴いてほしい。7月11日、TVアニメ『死亡遊戯で飯を食う。』のオリジナル・サウンドトラックが日本コロムビアから発売された(COCX-42658〜9/税込4,180円)。音楽を手掛けたのは作曲家・松本淳一。前日の7月10日には劇場エピソード『死亡遊戯で飯を食う。44:CLOUDY BEACH』の上映も始まっており、このサントラはTV本編と劇場版のBGMを一枚に束ねた“総集”的なアルバムとして届いた。全41曲。少女たちが命を賭けて殺し合う物語の音を、まるごと閉じ込めた格好だ。
「そして父になる」の男が、殺し合いを鳴らす
松本淳一という名前に、映画好きはピンと来るかもしれない。是枝裕和監督『そして父になる』で日本アカデミー賞・優秀音楽賞に輝き、エリザベート王妃国際音楽コンクール作曲部門でファイナリスト賞を得た、現代音楽出身の書き手だ。国立音楽大学で作曲を学び、アイスランド芸術大学の大学院にも籍を置いた経歴を持つ。アニメの領域では『魔法使いの嫁』の静謐で祈るようなスコアや、スーパー戦隊『魔進戦隊キラメイジャー』の熱量あふれる音楽で知られている。コンサートホールの作曲家が、こうしてデスゲームという極端に振り切ったジャンルに正面から取り組むこと自体が、この一枚の面白さの核心だと思う。
『死亡遊戯で飯を食う。』は、第18回MF文庫Jライトノベル新人賞《優秀賞》を受賞し『このライトノベルがすごい!2024』新作1位に輝いた鵜飼有志の原作。少女“幽鬼”たちが規格外のゲームに挑む、緊張と痛みに満ちた物語だ。この張り詰めた世界に、クラシックの厳格な語彙を持つ書き手を据える──製作陣のキャスティングの妙が、そのまま音に表れている。
全41曲──TVと劇場版を一枚に束ねる
収録内容は骨太だ。松本淳一によるTVアニメと劇場版のBGMを軸に、LIN(MADKID)が作曲・編曲を手掛けた全編インストゥルメンタルのOPテーマ「¬Ersterbend」、藤川千愛が歌うEDテーマ「祈り」(作曲・編曲は近藤世真/Elements Garden)のTVサイズ、さらに挿入歌としてOAされた「Breathe」「ReBreathe」(ともにMachico、LIN(MADKID)による歌唱)まで、全41曲を収録する。アニメーション制作はスタジオディーン、音楽制作は日本コロムビアが担当した。
- 本編+劇場版のBGMを網羅:TVエピソードと『44:CLOUDY BEACH』のスコアが一枚に同居する構成。
- 主題歌・挿入歌も収録:OP・ED・挿入歌のインスト/TVサイズまで拾い、作品の音世界を丸ごと俯瞰できる。
デスゲームに“クラシックの背骨”を通す
デスゲームの劇伴といえば、電子音の脈打つビートや不穏なアンビエントで煽るのが定石だ。だが松本の経歴を思えば、この作品の音はもっと構築的で、和声の陰影で聴かせるタイプになっているはずだ、と期待が膨らむ。『そして父になる』で見せた、沈黙のあいだに感情をそっと置いていくような筆致。『魔法使いの嫁』で紡いだ、痛みと救いが同居する透明な響き。そうした“クラシックの背骨”を、命の削り合いという極限のドラマに通したとき、何が鳴るのか。BGMを一枚に束ねたこのサントラは、それをじっくり検証できる格好の場になっている。
アニメ劇伴に映画・現代音楽出身の作曲家が起用される流れは、ここ数年でいっそう太くなった。松本淳一の『死亡遊戯で飯を食う。』は、その潮流のなかでも“ジャンルの落差”がとりわけ大きい一例だ。殺伐とした物語ほど、確かな作曲技術に裏打ちされた音が効く──そんな逆説を、この41曲は静かに証明してみせるはずだ。