高度成長期の天幕の下で、菅野祐悟が音を鳴らす

2026年7月4日、TOKYO MX・BS11ほかで放送が始まったオリジナルアニメ『グロウアップショウ ~ひまわりのサーカス団~』。『冴えない彼女の育てかた』の亀井幹太監督、キャラクター原案・深崎暮人、シリーズ構成・菊池たけしという布陣が、A-1 Pictures/Psyde Kick Studioと組んで放つ完全新作だ。舞台はなんと昭和30年代、高度経済成長期の日本。サーカスが娯楽の中心として人々の暮らしに溶け込んでいた時代を背景に、世界の祭典「キルクスコレクション」への出場を懸けて日本各地を巡る、万年金欠の「ひまわりサーカス」の少女たちを描く。原作モノが席巻するいまのアニメ界で、これだけ全力の“オリジナル”を立ち上げること自体がひとつの気概である。

そして7月5日、公式からオリジナルサウンドトラックの発売が発表された。発売は2026年9月30日(水)、CD2枚組、価格は3,850円(税込)。作品のために劇伴を書き下ろしたのは、名だたるヒット作を手掛けてきた菅野祐悟である。原作の縛りがない完全オリジナル、しかもサーカスと昭和という二重の“ハレの舞台”──この題材に菅野の名前が乗ったと知った瞬間、これは相当おもしろいことになるぞ、と背筋が伸びた。

ドラマも、大河も、ジョジョも──引き出しの多さという武器

菅野祐悟という作曲家を一言で説明するのは難しい。1977年生まれ、東京音楽大学作曲科卒。2004年のドラマ『ラストクリスマス』でデビューして以来、その仕事の振れ幅は尋常ではない。テレビドラマでは『ガリレオ』『昼顔』『罠の戦争』『あなたがしてくれなくても』。アニメでは『PSYCHO-PASS サイコパス』の冷たく張り詰めた電子音から、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ(スターダストクルセイダース/ダイヤモンドは砕けない/黄金の風/ストーンオーシャン)の過剰なまでに濃厚なスコア、さらに『ガンダム Gのレコンギスタ』まで。極めつけは2014年のNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』、2018年の連続テレビ小説『半分、青い。』と、公共放送の“国民的な音”までカバーしている。

ここで見逃せないのが、菅野がクラシックの現場に片足どころか両足を突っ込んだ作曲家だという点だ。2016年に「交響曲第1番~The Border~」、2019年に「交響曲第2番~Alles ist Architektur~」を発表し、演奏会という“逃げ場のない一発勝負”の世界で自作を鳴らし続けている。劇伴作曲家でありながら純音楽の交響曲を書く人間は、実はそう多くない。この経歴が、今回のサーカスという題材と噛み合うと私は睨んでいる。

サーカスの音楽は、劇伴の腕がまるごと問われる

考えてみてほしい。サーカスという舞台は、音楽にとって最高のごちそうであり、同時に最大の難所でもある。空中ブランコの緊張、道化師の軽妙、エアリアルシルクの妖艶、そして曲芸が決まった瞬間の爆発的なカタルシス──ジャンルも情感もめまぐるしく切り替わる。おまけに舞台は昭和30年代だから、当時のマーチやワルツ、チンドン的な猥雑さ、戦後日本の哀愁までもが射程に入る。一曲のなかで祝祭と哀しみを同居させる筆力が要る題材なのだ。

これはまさに菅野の得意技である。『ジョジョ』で見せた大見得を切るような大仰さ、大河で鍛えた歴史情緒、そして交響曲で培ったオーケストレーションの厚み。そのすべてが「天幕の下の一夜限りのショウ」という器にそのまま流し込める。オープニングテーマはNOMELON NOLEMONの「ユラリユレル」が担当するが、作品の背骨を支えるのはやはり菅野の劇伴だ。放送を追いながら、少女たちの夢と借金と晴れ舞台が、どんなオーケストラで鳴らされていくのか。そして9月30日、その全貌が2枚組に収まって我々の手元に届く。原作なきオリジナルだからこそ、音楽が物語の“もう一人の主役”になる。この夏、耳で確かめておきたい一本だ。