キネマシトラス15周年の“人魚姫”に、ブラジルの歌声が寄り添う
2026年夏、静かに幕を開けたオリジナルTVアニメ『さよならララ』。制作はキネマシトラス、スタジオの15周年記念作品だ。原案はアンデルセンの“人魚姫”。人間の姿になったものの真実の愛を見つけられなかった人魚の姫・ララが、200年の時を経て琵琶湖のほとりへ転生する——という、どこか湿度をまとった物語である。監督は小出卓史、シリーズ構成に川原杏奈、キャラクターデザインに谷紫緒。そして音楽を託されたのが、CMやドラマの現場を渡り歩いてきた作曲家 yuma yamaguchi だ。
この作品、まず絵づかいが尖っている。1990年代以前を思わせるセル画調のタッチ。小出監督いわく、最初からノスタルジーを狙ったわけではなく、細い線と淡い色で塗り固められた“今どきのアニメ”への反発から、この画面にたどり着いたという。その画に yamaguchi の音がどう寄り添うのか——サントラが出て、ようやく答え合わせができるようになった。
鍵は“調性”——監督が作曲家の自宅を訪ねた理由
今作の劇伴づくりで印象的なのは、小出監督が yamaguchi の自宅にまで足を運び、細部まで詰めたというエピソードだ。しかもその打ち合わせは、曲の調(キー)の選び方にまで及んだという。劇伴の現場で、監督が調性そのものに踏み込むケースはそう多くない。それだけこの物語における“音の色”が、作品の湿度や距離感を左右する重要な要素だったのだろう。
実際、公開された音源から漂ってくるのは、王道のアニメ劇伴とは少し違う空気だ。象徴的なのが、ブラジル出身のヴォーカリスト Tatiana Parra を招いた楽曲群。EPに収められた「LARA」や「Goodbye, Lara」では、彼女の声が水面のように揺らめき、人魚という主題に不思議な浮遊感を与えている。ブラジル音楽の湿り気を帯びた歌声が、琵琶湖という“淡水の舞台”と溶け合っていく感覚は、この作品ならではだ。
人魚姫という主題は、これまでも数えきれないほど音楽化されてきた。だからこそ、王道のオーケストラでもなく、シンフォニックなアニメ然とした音でもなく、ブラジルの歌声という“斜めの角度”から湖の物語へ入っていく判断には、はっきりとした作家性がにじむ。淡水の静けさ、転生というやり直しの切なさ、そして200年という時間の距離——その全部を、yamaguchi は派手さではなく“質感”で描こうとしているように聴こえる。
EPが先、完全版は9月30日——2段構えのリリース
リリースは2段構えになっている。まず先行して、「TVアニメーション『さよならララ』ORIGINAL SOUNDTRACK EP」が2026年7月6日に配信スタート。全6曲・約13分という、あくまで“予告編”的なサイズ感だ。そして本命の完全版サウンドトラックが2026年9月30日に登場する。こちらはCD2枚組(+配信)で、価格は3,300円(税込)。EPで気になった人は、この2枚組でようやく全景を眺められるという仕掛けである。
オリジナルアニメの劇伴は、既存の原作ファンという“下地”がないぶん、音そのものが世界観を立ち上げる責任を負う。yamaguchi と Tatiana Parra が紡いだ『さよならララ』の音は、その責任を、湖面のような静けさで引き受けている。まずはEPで、この夏の“人魚の歌”に耳を澄ませてみてほしい。