「現存しない」と言われていたテープが、倉庫から出てきた
劇伴の世界では、「音源は残っていない」という一文がしばしば最終判決として機能する。放送から半世紀が経った作品ならなおさらだ。マスターテープは局や制作会社の倉庫を転々とし、記録フォーマットは廃れ、当時の担当者は現場を去り、やがて「たしか処分されたはず」という伝聞だけが残る。劇伴は本編に貼り付いたまま、単体では二度と聴けないものになる。1973年の特撮テレビシリーズ『スーパーロボット レッドバロン』の音楽も、長いあいだその側にあった。
ところが今年8月27日、サウンドトラックラボラトリーが出したリリース情報は、その判決を静かにひっくり返すものだった。失われて現存しないと言われていた『スーパーロボット レッドバロン』の音源テープが、倉庫で発見された――そう告げたうえで、同レーベルは2026年9月30日に2枚組CD『スーパーロボット レッドバロン オリジナル・サウンドトラック』(STLC-066〜067/4,400円税込)を発売する。放送開始から53年目にして、この作品の音楽がまとまった形で商品化されるのは、これが初めてだ。
ここで効いているのは「初商品化」という言葉の重さである。人気シリーズなら、放送当時にレコードが出て、90年代にCD化され、2000年代にリマスターされ……という積み重ねがある。だが『レッドバロン』にはその蓄積がなかった。つまり今回のCDは、再発でも拡大版でもなく、この劇伴にとって最初の「一次資料」になる。半世紀ぶんの空白のあとに、いきなり決定版が出てくるという珍しい事態だ。
ブラス・ロックで鳴らす、1973年の巨大ロボット
『スーパーロボット レッドバロン』は、1973年7月4日から1974年3月27日まで日本テレビ系で放送された全39話の特撮シリーズで、制作は宣弘社。国際ロボット博覧会から巨大ロボットを強奪した「鉄面党」に対し、兄が遺した巨大ロボット・レッドバロンを駆る紅健が立ち向かう、という骨格を持つ。序盤は苦戦したものの1973年9月頃には視聴率が好転し、それでもスポンサー事情から1974年3月に幕を下ろした――という、当時のロボット特撮らしい綱渡りの一年でもあった。
その一年を鳴らしていたのが、ボブ佐久間の劇伴である。レーベルが今回のリリースで前面に出しているキーワードは「クールなブラス・ロック・サウンド」。1973年という年号を思えば、これは実に納得のいく手つきだ。当時の日本の劇伴現場では、スタジオ・ミュージシャンによる管楽器セクションと、ロックのリズム隊を同じ譜面の上で噛み合わせる書き方が急速に洗練されていた時期にあたる。巨大ロボットという被写体は、その語法にとって理想的な的だったはずだ。金管の短い刺し込みで鉄の重量を出し、ドラムとベースで歩幅をつくる。旋律を歌わせるより先に、まず「動いている感じ」を鳴らす音楽である。
そして、この種のサウンドはフィルムから切り離して聴いたときに化けることが多い。本編では効果音とセリフの下に敷かれていた管楽器のアンサンブルが、単体で聴くとほとんどインストゥルメンタル・ファンクの体裁を持っている――というのは、昭和特撮のサントラ発掘でくり返し起きてきたことだ。約60曲のBGMがまとめて並ぶ今回の構成は、その検証を初めて可能にする。
ボブ佐久間という、越境し続けた作曲家
ボブ佐久間のキャリアは、劇伴作家という肩書きだけでは収まらない。4歳でヴァイオリンとピアノを始め、東京交響楽団でコンサートマスターを務めたのち、クラブでピアノを弾く生活へ移る。1972年、第1回東京音楽祭で「恋のドブネズミ」が注目を集めて作編曲家として本格的に世に出た。1977年から1985年まではハリウッドで研鑽を積み、帰国後はテレビ番組や歌手のアレンジ仕事を重ねている。『クイズダービー』『爆笑オンエアバトル』といった番組音楽、西城秀樹や少年隊のための編曲、さらに1995年から2012年まで名古屋フィルハーモニー交響楽団ポップスオーケストラの音楽監督・指揮者。オーケストラの内側と、歌謡曲・テレビの現場と、その両方に足を置き続けた人だ。
アニメ・特撮方面では『科学忍者隊ガッチャマン』『宇宙の騎士テッカマン』が知られる。『レッドバロン』はその『ガッチャマン』とほぼ同時期の仕事にあたり、つまり今回発掘された音は、彼が20代から30代にかけて最も密度高くテレビの現場を走っていた時期の記録でもある。オーケストラの内部を知る人間がブラス・ロックを書くと何が起きるか――そこが、このCDの最大の聴きどころになるはずだ。
2枚組・約60曲、ブックレットにはインタビューも
- タイトル:スーパーロボット レッドバロン オリジナル・サウンドトラック(STLC-066〜067)
- 発売日:2026年9月30日/4,400円(税込)
- 内容:CD2枚組。約60曲のBGMに加え、主題歌・挿入歌をTVサイズ、レコードサイズ、カラオケなど複数バージョンで収録
- 歌唱:朝コータロー、団しん也、ミュージカル・アカデミー
- ブックレット:28ページ。企画・原案者とボブ佐久間へのインタビュー、楽曲解説、BGMリストを掲載
BGMリストが付くという一点も、資料として大きい。昭和期の劇伴は、キューごとの曲名や使用箇所が公式に整理されないまま流通することが多く、ファンの耳とメモに頼って再構成されてきた領域だ。今回それが一次情報として印刷される。
なお、発売に先がけた先行販売イベントが2026年9月25日に東京カルチャーカルチャー(東京・渋谷)で開催される。物販とサイン会、原画の展示に加え、後半にはサウンドトラックの解説や本編上映、制作を振り返るトークが予定されている。発掘された音を、当事者の言葉と一緒に浴びられる機会はそう多くない。
劇伴のアーカイブは、誰かが倉庫を開けなければ始まらない。そして開けた結果、音が良好な状態で残っていたというのは、本来なら宝くじに近い確率の話である。53年ぶんの沈黙のあとに鳴り出す約60曲が、1973年のテレビがどれだけ攻めた音を出していたかを、そのまま証拠として差し出してくれるはずだ。