7月11日、TVアニメ『死亡遊戯で飯を食う。』のオリジナル・サウンドトラックが日本コロムビアから発売される。2枚組・全41曲収録予定、品番COCX-42658-9、価格は4,180円(税込)。音楽を手がけるのは松本淳一。この名前を見て「ああ、あの人か」と膝を打った人と、「誰?」と思った人が、たぶんきれいに半分ずつに分かれる。そして後者の人にこそ、このサントラは聴いてほしい。

というのも松本淳一は、いまの日本の劇伴作曲家のなかでも、かなり特異な位置に立っている人物だからだ。

コンクールの最前線にいる劇伴作曲家という珍しさ

松本淳一は1973年生まれ、北海道釧路市出身。国立音楽大学作曲学科を卒業し、のちにアイスランド芸術大学大学院の作曲修士課程へ留学している。ここまでなら「現代音楽畑の人」で終わる。だが彼の経歴が面白いのは、そこから先も現代音楽の第一線に立ち続けていることだ。

2011年、エリザベート王妃国際音楽コンクール作曲部門でファイナリスト賞。第91回日本音楽コンクール作曲部門で第2位に入り、芥川也寸志サントリー作曲賞にノミネート。そして第93回日本音楽コンクール作曲部門では、ついに第1位を獲得している。日本音楽コンクールの作曲部門は、いわば日本の現代音楽におけるもっとも硬派な登竜門だ。そこで一位を取る人が、翌シーズンにはデスゲームアニメのBGMを書いている。この振れ幅は、控えめに言って異常である。

一方で映像音楽のキャリアも厚い。是枝裕和監督『そして父になる』では第37回日本アカデミー賞・優秀音楽賞を受賞。テレビ朝日系スーパー戦隊シリーズ『魔進戦隊キラメイジャー』の音楽を担当し、劇場版やVシネクストまで一貫して鳴らし続けた。アニメでは『魔法使いの嫁』とOAD『星待つひと』、そして『プランダラ』。さらに東京2020パラリンピック開会式「片翼の小さな飛行機」の音楽まで手がけている。

もうひとつ、彼を語るうえで外せないのが変則ユニット「MATOKKU」だ。テルミン奏者トリ音、オンド・マルトノ奏者・久保智美と組んだこのユニットで、松本は矢野顕子作品にも参加している。テルミンとオンド・マルトノ──20世紀初頭に生まれた二つの電子楽器を「編成」として日常的に扱う劇伴作曲家が、日本に何人いるだろうか。

『魔法使いの嫁』の静けさと、デスゲームの温度差

『死亡遊戯で飯を食う。』は、命を賭したデスゲームを「職業」として淡々とこなす主人公を描く作品だ。ここで松本淳一が起用されたことの意味を、彼の過去作から逆算して考えてみたい。

『魔法使いの嫁』で彼が書いたのは、ケルト的な音色と現代音楽的な和声が溶け合う、静謐で祈りに近い音楽だった。決して饒舌ではない。むしろ「鳴らさない」判断が音楽の主役になっている場面が多かった。一方『魔進戦隊キラメイジャー』では、真逆の、金管と打楽器が跳ね回るポップで色彩的なスコアを量産している。

この二つを同じ人間が書いているという事実こそが、『死亡遊戯』への配置の答えだと思う。デスゲーム作品の音楽に必要なのは、緊張の維持だけではない。「日常」と「殺し合い」のあいだを、音楽が切れ目なく行き来できることだ。松本淳一は、その両端をすでに実作で押さえている作曲家なのである。

  • 祈りの音:『魔法使いの嫁』系譜の、余白を活かした静的な弦と鍵盤
  • 咆哮の音:『キラメイジャー』系譜の、輪郭のはっきりした打楽器とブラス
  • 異物の音:MATOKKUで培った、テルミン/オンド・マルトノ的な「人の声にも機械にも聞こえない」帯域

三つめが効いてくるとしたら、それは死が近づく瞬間だろう。輪郭を持たない電子的な音は、恐怖の描写において最も安上がりで、最も強い。安上がりなだけに凡百の作品では陳腐化するが、コンクールで一位を取る耳がそれを扱うと話が変わってくる。

41曲という物量が意味するもの

今回のサントラは、TVアニメ本編のBGMだけで完結しない。日本コロムビアの商品情報によれば、2026年7月10日より劇場上映される『死亡遊戯で飯を食う。44:CLOUDY BEACH』のエピソードのBGMも収録される。つまりこのアルバムは、TVシリーズと劇場版という二つのフォーマットの音を、ひとつのパッケージで俯瞰できる構成になっている。

加えて、LIN(MADKID)が作曲・編曲を担当したOPテーマ「¬Ersterbend」──こちらは全編インストゥルメンタル版──、藤川千愛が歌うEDテーマ「祈り」(作詞:藤川千愛/作曲・編曲:近藤世真〈Elements Garden〉)のTVサイズ、さらに挿入歌「Breathe」「ReBreathe」(歌:Machico、LIN(MADKID))まで束ねられている。

ここで注目したいのは、OPテーマが「全編インストゥルメンタル」でアニメに使われたという事実だ。歌モノ全盛のTVアニメOPで、歌詞を持たない楽曲を掲げる。しかもそのタイトル「¬Ersterbend」の「ersterbend」は、楽譜上で「消え入るように」を意味する演奏指示である。デスゲームという題材に対して、音楽サイドがどれだけ意識的に設計を組んでいるかが、この一点だけでも伝わってくる。

劇伴を「作品の付属物」として片づける時代は、とっくに終わっている。41曲という物量は、そのまま作り手の設計図の分量だ。7月11日、CDでも配信でも構わない。日本音楽コンクールの一位が鳴らすデスゲームの音を、ぜひ最初から最後まで通しで聴いてみてほしい。