7月8日、いわゆる「なのはの日」に、とんでもない量の音楽がストリーミングの海へ放流された。『魔法少女リリカルなのは』シリーズのアニメ・映画あわせて8シリーズ、全10タイトル分のオリジナルサウンドトラックとキャラクターソングが、キングレコードからサブスク初解禁されたのだ。その数、なんと計472曲。全世界配信である。20年以上かけて積み上げられてきた劇伴の地層が、ある朝いきなり丸ごと掘り起こされて目の前に並んだ、と言えばこの衝撃が伝わるだろうか。
「なのはの日」に472曲が一斉解禁──20年分のカタログが動いた
今回の一斉解禁のきっかけは、完全新作TVアニメ『魔法少女リリカルなのは EXCEEDS Gun Blaze Vengeance』の放送。新シリーズのスタートに合わせて、過去作の音源をまとめて開放するという、いかにも周年カタログらしい戦略だ。原作者・都築真紀からもコメントが寄せられ、公式プレイリストも同時に公開された。7月15日の夜には、ソーシャル・オーディオ・プラットフォーム「Stationhead」でリスニングパーティーまで予定されている。単なる配信開始ではなく、ファンが同じ時間に同じ曲を聴く「場」まで用意しているあたりに、この作品と音楽の結びつきの強さがにじむ。
そもそも「なのはの日」というのが7月8日=「7(な)8(は)」の語呂合わせで定着した非公式記念日で、こういう日にカタログを開放してくるセンスがいい。数字あわせのお祭りに、472曲という圧倒的な物量をぶつけてくる。これはもう祭りだ。
佐野広明が20年鳴らし続けた「魔法バトル」の音
『なのは』の音楽を語るうえで外せないのが、TVシリーズから劇場版初期までの劇伴を手がけてきた作曲家・佐野広明だ。2004年放送の第1期以来、この人の書くスコアが「なのはの音」を決定づけてきた。魔法少女という看板を掲げながら、中身はガチのバトルアクション──という『なのは』の独特な立ち位置を、音楽面で支えてきたのが彼のオーケストレーションである。ストリングスとブラスで畳みかける戦闘曲の緊張感と、フェイトやなのはの心情に寄り添う旋律の繊細さ。この振れ幅の大きさこそがシリーズの音楽的な魅力だった。
のちに劇場版『Detonation』では中條美沙が音楽を担当するなど、作品ごとに作曲家のバトンが受け渡されてきた歴史もある。だからこそ、今回のように複数タイトルのサントラが横並びで聴けるようになったことの意味は大きい。TV版と劇場版で音がどう変わっていったのか、シリーズを通してどんな主題が反復・変奏されてきたのか──そういう「聴き比べ」が、CDを何枚も棚から引っ張り出さなくても、指一本でできるようになったのだから。
フィジカル時代のサントラが、サブスクで“二度目の解禁”を迎える意味
ここ最近、こうした「旧作サントラの一斉サブスク解禁」がひとつの潮流になっている。物理メディア中心の時代に出たアニメ・ゲームのサウンドトラックは、長らく配信の外側に置かれてきた。中古盤を探すか、手放してしまって二度と聴けないか──劇伴ファンにとってはそういう「失われた音源」がたくさんあった。それがサブスクという形で“二度目の解禁”を迎えている。作り手にとっては眠っていたカタログが再び収益を生み、聴き手にとっては歴史がまるごとアクセス可能になる。双方にとって悪くない話だ。
472曲という数字は、単なるボリュームの誇示ではない。それは20年分の劇伴の記録が、いま同じ地平に並べ直されたということだ。新作『EXCEEDS』を入り口に過去へ遡るもよし、逆に第1期のスコアから今日までの音の進化を追うもよし。『なのは』の音楽が積み上げてきた分厚い時間を、まるごと自分の再生リストに引き込める。こんなに贅沢な「なのはの日」もそうそうない。