マンガ大賞2023の大賞作が、音を得た夏
2026年7月3日、日本テレビ系の深夜アニメ枠「フラアニ(FRIDAY ANIME NIGHT)」で、とよ田みのる原作『これ描いて死ね』の放送が始まった。原作は小学館「ゲッサン」で2021年から連載され、マンガ大賞2023の大賞、そして第70回小学館漫画賞に輝いた話題作だ。放送開始にあたっては青山剛昌、あだち充、高橋留美子といった錚々たる漫画家たちが応援イラストを寄せ、業界の期待の高さを物語っていた。
物語の舞台は、東京から南へ120キロ離れた伊豆王島。マンガをこよなく愛する高校1年生・安海相(あんかい あい)が、憧れの漫画家との出会いをきっかけに「読む側」から「描く側」へと足を踏み出していく。マンガ研究会を立ち上げ、仲間やライバルと共に一冊の本を作り、同人誌即売会コミティアを目指す──派手なバトルも異世界もない、ただ「創作」そのものを描くこの作品を、いったいどんな音楽が支えるのか。そこにこそ注目したい。
『呪術廻戦』の作曲家が、静かな熱に寄り添う
劇伴を手がけるのは、ミラクル・バス所属の堤博明。1985年生まれ、国立音楽大学出身で、14歳でギターを始めたという異色の経歴を持つ作曲家だ。その代表作を並べると、『呪術廻戦』『東京卍リベンジャーズ』『からかい上手の高木さん』『クジラの子らは砂上に歌う』──アクションの緊迫からラブコメの甘さ、幻想的な叙情まで、その振れ幅の大きさに驚かされる。
とりわけ『呪術廻戦』で見せた、ロックギターとオーケストラを衝突させる強靭なサウンドは、多くのアニメファンの耳に焼き付いているはずだ。その堤が、今度は爆発も呪いもない「机に向かってペンを走らせる」物語に向き合う。派手な見せ場が少ない題材だからこそ、劇伴の担う役割はむしろ大きい。キャラクターの内面の高揚、白紙のページが埋まっていく高揚、そして「描けない」もどかしさ──言葉にならないその温度を、音は代弁しなければならない。
実際、堤の劇伴は「静けさ」の描き方に一日の長がある。『からかい上手の高木さん』での軽やかなピアノやウクレレの語り口を思い出せば、日常の何気ない一瞬に体温を通わせる術を、この作曲家がよく知っていることがわかる。マンガに向き合う少女たちの、はしゃぐ声と黙り込む沈黙、その両方に寄り添える引き出しの多さは、『これ描いて死ね』のような繊細な題材にこそ生きるはずだ。
創作を描くアニメと、劇伴という「もう一つの創作」
考えてみれば、「創作する人」を描く物語と、それに音楽をつける劇伴作曲家の仕事は、どこか鏡合わせの関係にある。安海相が白紙のページに最初の一本の線を引く瞬間の緊張は、作曲家が何もない譜面に最初の一音を置く瞬間の緊張と、そう遠くない。堤博明という、ジャンルを問わず「熱」を鳴らしてきた職人が、まさに「熱を持って何かを生み出す」物語に呼ばれたのは、偶然にしては出来すぎているとすら思う。
OPテーマはキタニタツヤ「遺書」、EDテーマはリーガルリリー「コニファー」と、主題歌も気鋭のアーティストで固められた。だが本作の音楽的な聴きどころは、むしろ主題歌の隙間で鳴り続ける劇伴にこそあるだろう。夏の離島に降りそそぐ光、放課後の教室のざわめき、そして「これを描いて死ぬ」という覚悟の重さ。堤博明がその一つひとつをどんな音色で描き出すのか──サントラ化の報を待ちながら、まずは毎週金曜の放送で、じっくり耳を澄ませたい。