2009年の『化物語』から始まった、あの饒舌なアニメの音楽がついに終着点にたどり着いた。2026年7月1日、〈物語〉シリーズ ファイナルシーズンを構成する「憑物語」「終物語」「続・終物語」のオリジナルサウンドトラック3種が、CDで一斉に発売された。同日には各作品の劇伴音楽集の配信もスタート。長い長いシリーズの音の記録が、まとめて世に放たれた格好だ。
一日に3タイトル、CD計8枚組という物量
まず驚かされるのは、その物量である。「憑物語」がCD2枚組・全30曲、「続・終物語」が同じくCD2枚組・全30曲。そして中核となる「終物語」に至っては、CD4枚組・全71曲という堂々たるボリュームだ。3タイトルを合わせればCDだけで8枚組、収録曲は130曲を超える。これを同じ日に、まとめてリリースするという判断そのものが、シリーズの完結を音楽面から一気に総括しようという意志の表れに見える。
〈物語〉シリーズは、会話劇と言葉遊びが主役の作品だ。だからこそ、そこに寄り添う劇伴は「セリフを邪魔せず、しかし場面の温度を決定づける」という難しい役割を負ってきた。71曲という「終物語」の楽曲数は、そのシーンごとの機微をどれだけ細かく音で塗り分けてきたかの証拠でもある。
神前暁とMONACAが積み上げてきた、饒舌のための音楽
この膨大な音楽を手がけてきたのが、作曲家・神前暁と、彼が所属する音楽制作集団MONACAだ。『化物語』以来、シリーズを貫いて音楽を担当し続けてきた顔ぶれが、ファイナルシーズンでもその筆を執っている。
神前暁の劇伴は、ジャズやボサノヴァ、クラシック、エレクトロニカといった多彩な語法を、作品ごと・キャラクターごとに使い分けるのが特徴だ。軽妙な会話の裏でさりげなくスウィングするピアノ、緊張の場面で一気に張り詰める弦──そのどれもが「言葉を聴かせるための音楽」として設計されている。過剰に主張しないのに、無いと途端に画がもたなくなる。そういう劇伴の理想形を、このシリーズは17年かけて磨き上げてきた。
- 憑物語:CD2枚組・全30曲
- 終物語:CD4枚組・全71曲(シリーズ屈指の大ボリューム)
- 続・終物語:CD2枚組・全30曲
サブスクでも同時解禁、完結を「聴いて確かめる」
今回はCDの発売と同じ7月1日に、各作品の劇伴音楽集がデジタル配信でも解禁された。物理メディアの重厚な箱を手にする喜びと、サブスクで気軽に全曲を追える手軽さ。その両方が同じ日にそろったことで、長年のファンも、これから遡って聴き始める人も、それぞれの入り口からファイナルシーズンの音に触れられる。
会話が終われば、物語も終わる。けれど、その会話を17年間ずっと支え続けてきた音は、こうしてパッケージとして残る。膨大なトラックリストを一曲ずつたどっていけば、あの独特な世界がどれだけ緻密に音で組み上げられていたかが、きっと改めて見えてくるはずだ。シリーズの幕引きを、まずは耳から確かめてみたい。
思えば〈物語〉シリーズは、劇伴の存在感がそのまま作品の個性になった稀有な例だった。無音に近い間があると思えば、突如としてキャッチーなテーマがねじ込まれる。会話のテンポと音楽のテンポが絶妙にずれたり重なったりすることで、あの独特の浮遊感が生まれていた。今回まとめて聴き返すと、その仕掛けが各作品でどう進化してきたのかが、一本の線としてくっきり見えてくる。完結を機に、改めてサントラから物語をたどり直すのも一興だろう。