200年の時を超えて、人魚姫が琵琶湖に還ってくる

2026年7月、ちょっと不思議な手ざわりのオリジナルアニメが始まった。『さよならララ』——制作は『メイドインアビス』や『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』で知られるキネマシトラスで、これがスタジオ15周年記念作品にあたる。原案もキネマシトラス、監督は同スタジオで研鑽を積んだ小出卓史。原作つきの企画がずらりと並ぶ2026年夏アニメのラインナップのなかで、完全オリジナルというだけで背筋が伸びる。

物語のベースはアンデルセンの『人魚姫』だ。海の王ローワンの六番目の娘として生まれたララは、禁じられた人間への恋の果てに、かつて泡となって消えた。それから約200年。彼女はなぜか現代・滋賀県の琵琶湖によみがえり、女子高生ボクサーの大津茉里の家に転がり込む。海の“泡”の悲劇から、湖畔の日常へ。舞台を琵琶湖という淡水に移した時点で、この作品が古典童話をそのまま鳴らす気がないことは明らかで、音楽の設計にも当然その狙いが響いてくる。

「音楽:yuma yamaguchi」——監督が自宅に通いつめた劇伴

劇伴を手がけるのは作曲家の yuma yamaguchi。まだ大きくは知られていない名前だが、この起用こそ本作の“聴きどころ”だと言いたい。というのも、報じられているところでは、小出監督自身が yamaguchi の自宅にまで足を運び、曲ごとの調性(キー)に至るまで細かく詰めながら劇伴を作り上げたという。監督が音楽家の作業場に通いつめて一音一音を握るというのは、量産体制のTVアニメではそう頻繁にあることではない。それだけこの作品にとって、音が物語を運ぶ主役級のパーツだということだろう。

人魚姫の悲劇性、200年という時間の重さ、そして琵琶湖という穏やかで少し寂しい水辺の空気。これらを同居させるには、派手なオーケストレーションで押すよりも、調性の選び方やモチーフの繊細な運用が効いてくる。監督が「調性まで」と口を出したという逸話は、まさにそこ——長調と短調のあわい、湖面に射す光と底に沈む記憶のコントラストを、音楽で描こうとしていることの証左に思える。放送を追いながら、同じ人魚姫のモチーフが場面ごとにどう転調していくのかを耳で追うのは、この作品ならではの楽しみ方になりそうだ。

いきものがかりとHana Hope、そして7月に解禁された劇伴EP

主題歌の座組も豪華だ。オープニングは、いきものがかりの新曲「さよならララ」。作詞・作曲は水野良樹、編曲は亀田誠治というゴールデンコンビで、作品タイトルをそのまま冠したこのタイアップは、7月13日に公開されたクレジット付きOP映像でようやく全貌が見えた。エンディングは Hana Hope の「Hearts Glow」。編曲に David Baron を迎え、こちらも国境をまたいだ布陣で仕上げている。

そして劇伴ファンに嬉しいのは、放送開始とほぼ同時に劇伴EPがデジタルで先行配信されたこと。さらに完全版のオリジナル・サウンドトラックが9月30日に控えている(音楽制作はKADOKAWA)。つまり、いま本編を観ながら気になったあの一曲を、その日のうちに配信で確かめられる。監督が調性から練り上げたという yamaguchi の劇伴が、映像と切り離された“音そのもの”としてどう立っているのか。EPで予習し、9月のフルアルバムで答え合わせをする——そんな聴き方ができる夏の一本として、『さよならララ』はしっかりチェックしておきたい。