ピアノトリオが“思春期症候群”を鳴らしてきた

劇伴といえば、オーケストラを束ねる一人の作曲家を思い浮かべる人が多い。だが『青春ブタ野郎』シリーズの音を支えてきたのは、たった三人のバンドだ。2018年のTVアニメ『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』から一貫して劇伴を手がけるのは、ピアノトリオ編成のインストゥルメンタル・バンド、fox capture plan。そのシリーズがついに完結を迎える。原作最終巻を映画化した『青春ブタ野郎はディアフレンドの夢を見ない』が2026年10月16日に劇場公開されることが決まり、音楽はもちろん彼らが続投する。八年に及ぶ“思春期症候群”の物語を、最後までこの三人が鳴らし切るというわけだ。

なぜ“バンド”が劇伴を任され続けるのか

fox capture planは2011年に結成された三人組で、「現代版ジャズロック」を掲げて活動してきた。ピアノの岸本亮、ベースのカワイヒデヒロ、ドラムの井上司という編成で、生々しいグルーヴと叙情的なメロディを両立させるのが持ち味だ。『BRIDGE』『BUTTERFLY』といったアルバムでCDショップ大賞ジャズ部門やJAZZ JAPAN AWARDを重ね、フジロックやSUMMER SONICのステージにも立ってきた。単なる“劇伴屋”ではなく、自分たちの作品でファンを持つバンドが映像音楽に軸足を広げてきた、という点がまず面白い。

そして彼らはドラマ劇伴の世界でも実績を積んでいる。『カルテット』『コンフィデンスマンJP』『健康で文化的な最低限度の生活』『ブラッシュアップライフ』『アンメット ある脳外科医の日記』、さらに実写版『【推しの子】』やNetflixシリーズ『阿修羅のごとく』まで、話題作の音を任されてきた。2023年には第74回NHK紅白歌合戦のオープニングテーマを書き下ろし・演奏するという大役も果たしている。余談だが、ベースのカワイヒデヒロの叔父は『攻殻機動隊』や『パトレイバー』で知られる作曲家・川井憲次。劇伴の血は、こんなところにも流れている。

ED「不可思議のカルテ」から続く“青ブタの音”

青ブタの音楽的な看板といえば、シリーズを通して流れるエンディングテーマ「不可思議のカルテ」だろう。fox capture planはこの曲を自らの手でセルフカバーし、バンドサウンドとして鳴らし直してきた。劇伴とは別に主題歌そのものを再構築できるのは、原曲の骨格を知り尽くした作り手だからこそだ。オーケストラの壮麗さではなく、三人の呼吸で刻むピアノトリオの温度感。梓川咲太たちの等身大の会話劇や、ふと胸をつく感情の揺れに、この生バンドの質感がよく馴染んできた。シリーズが長く愛されてきた理由の一端は、間違いなくこの“音の一貫性”にある。

完結作に託されるもの

『ディアフレンドの夢を見ない』は、高校生編・大学生編と続いてきた“思春期症候群”の謎がついに解き明かされる完結編だ。原作は累計発行部数300万部を突破した鴨志田一のライトノベルで、監督は増井壮一、アニメーション制作はCloverWorks、配給はアニプレックスと、シリーズを支えてきたスタッフが引き続き名を連ねる。舞台となるのは藤沢と横浜。あの海辺の街の空気を、fox capture planはどんな音で締めくくるのか。八年分の記憶を背負ったサウンドトラックがどう仕上がるのか、劇場公開とあわせて心待ちにしたい。