1953年に手塚治虫が描き始めた『リボンの騎士』が、2026年の夏、Netflix映画『THE RIBBON HERO リボンヒーロー』として世界に配信された。8月8日の世界独占配信に合わせてデジタル版が同日リリースされていたオリジナル・サウンドトラックが、9月9日にCDとして店頭に並んだ。音楽を手がけたのは、MONACAの神前暁と髙田龍一。この二人の名前が並んでいる時点で、劇伴好きとしては黙っていられない。

ハルヒと〈物語〉の人、牙狼とアイカツの人

神前暁といえば『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』、そして〈物語〉シリーズの音楽で2000年代後半のアニメ音楽の空気そのものを作った人だ。近年は『BEASTARS』や『薬屋のひとりごと』(Kevin Penkin、桶狭間ありさとの3人体制)で、歌モノだけでなくスコアの作家としても存在感を増している。京都大学工学部の情報工学科を出てナムコに入り(1999〜2005年)、『鉄拳』や『塊魂』『アイドルマスター』のゲーム音楽を書いてからMONACAに移った、という経歴は何度読んでも面白い。

一方の髙田龍一は東京藝術大学の作曲科出身。2002年にナムコに入社し、『ソウルキャリバーII/III』や『鉄拳』シリーズ、『NieR』のサウンドに関わったのち、2009年秋にMONACAへ加入した。アニメでは『牙狼』シリーズや『アイカツ!』、『シャングリラ・フロンティア』などを手がけ、MONACA公式wikiによれば好きな作曲家はヴォイチェフ・キラール。国際色のあるオーケストラ・ドラマを好むと公言している作家だ。つまり今回の『リボンヒーロー』は、ナムコのサウンドチームを経てMONACAに集った二人が、手塚治虫の古典を相手に組んだ一本ということになる。

36トラック、約72分。役割分担が透けて見えるトラックリスト

配信版のサウンドトラックは36トラック・約1時間12分。MONACA公式wikiのクレジットを追うと、劇伴34曲のうち神前が18曲、髙田が16曲を担当している。曲名を眺めるだけでも、二人の分担にはっきりした輪郭があるのが分かる。

  • 神前暁:「むかしむかし」「崩れるシルバーランド」「変身!!」「リボンの騎士現わる」「剣撃」「呪いの姫君」「祈りを翼に」「サファイアの決心」、そして本編を締める「THE RIBBON HERO」。物語の起点と、主人公サファイアが"騎士"になる瞬間を神前が握っている。
  • 髙田龍一:「天国からの逃走!」「夜襲」「ミトラ」「ベルベット登場」「ネルガルの谷」「仲間たち」「暗雲」。災厄ネルガル、敵側のベルベット、追跡と逃走──緊張感を担う側のキューが髙田に集まっている。

もちろん曲名から音を断定するのは危ういけれど、"主人公の変身と決意"を神前が、"世界を脅かす側"を髙田が受け持つという棲み分けは、二人のこれまでのキャリアを知っていると腑に落ちる。ハルヒ以来、神前は「キャラクターが前に出る瞬間」を鳴らすのが抜群にうまい。髙田がキラール好きを公言しているのは、重厚なオーケストラの暗部を書きたい作家の自己申告でもある。

挿入歌も二手に分かれている。パイン(CV:小林星蘭)が歌う「冬枯れの旅人」は神前の作曲・編曲、杉並児童合唱団と瀬尾祥太郎(MONACA)、平山盾矢が歌う「あゝ王よ」は髙田の作曲・編曲。作詞はどちらもこだまさおりだ。ちなみに配信開始日にはMONACA公式Xが「祈りを翼に」「パインの決心」「ゴールドランド幸せに」の作曲者表記を神前暁に訂正するアナウンスを出しており、二人の名前が入り組んだ共作であることが逆に伝わってくる。

ラランドのサーヤが演じるサファイア、HYBEの主題歌

映画本体についても触れておく。監督・脚本は五十嵐祐貴、製作はツインエンジン、アニメーション制作はOUTLINE。キャラクター原案に望月けいを迎え、主人公サファイアの声はお笑いコンビ・ラランドのサーヤが務める。パインに小林星蘭、ベルベットに内山昂輝。上映時間は108分で、Netflix配信のあと9月4日から2週間限定で劇場公開もされた。災厄ネルガルに国を滅ぼされた王女サファイアが、隣国で再び災厄に立ち向かう、という骨格は原作の"王子として育てられた王女"というモチーフを現代的に組み替えたものだ。

主題歌「Reborn」を歌うのはHYBEの日韓合同プロジェクトから生まれたプレデビューのガールズグループ、Girls Archives.。Real Soundのインタビューでメンバーは「すべての歌詞が、サファイアの心情と重なっていて」と語っている。劇伴はMONACAの二人、主題歌はHYBE──手塚作品のリブートに、日本のアニメ音楽の職人と韓国発のポップの両方を投入した座組は、Netflixが「世界独占配信」を前提にしていることの表れだと思う。

ナムコ出身コンビの"共作"はどう聴くべきか

MONACAは基本的に作家ごとの個性が強い集団で、神前と髙田が一本の映画で肩を並べる機会はそう多くない。二人ともゲーム会社のサウンドチームでキャリアを始めていることを考えると、「場面ごとにキューを割り振り、全体のトーンを合わせる」という共作の作法は、そもそもゲーム音楽の現場で身につけたものだろう。36トラックを通して聴くと、作家の切り替わりを意識せずに一本の映画として流れるのか、それとも二人の色が交互に顔を出すのか。そこがこのサントラの一番の聴きどころだ。

手塚治虫の古典を、Netflixが世界に届け、ナムコ出身の二人が音を付ける。2026年のアニメ音楽の地図を考えるうえで、この一枚は小さくない座標になると思う。CDはFUJIPACIFIC MUSIC/FABTONEから、配信は各サービスで。まずは「むかしむかし」から「THE RIBBON HERO」まで、順番どおりに通してほしい。