ルーカスフィルムが、日本の劇伴コンビに委ねた「フォースの音」
「スター・ウォーズ」のスコアと聞けば、多くの人はジョン・ウィリアムズのあの金管を思い浮かべるはずだ。ところが2026年8月、その神話的な音世界のひと隅を、日本のふたりの作曲家が正面から任された。Disney+のアニメシリーズ『スター・ウォーズ:ビジョンズ presents ザ・ナインス・ジェダイ』のオリジナル・サウンドトラックが、8月7日にウォルト・ディズニー・レコードからデジタル配信でリリースされたのだ。音楽を手がけたのは、戸田信子と陣内一真。全27曲、約70分。ルーカスフィルムとディズニーが、銀河のひと章まるごとの“音”を日本のコンビに預けた——この一点だけでも、劇伴を追う身としては胸が高鳴る。
本作は全8話の限定シリーズで、短編『ザ・ナインス・ジェダイ』および『ザ・ナインス・ジェダイ:チャイルド・オブ・ホープ』の後を継ぐ物語。主人公ラー・カラたちジェダイ見習いの一団が、父を救うための旅に出る。つまり、単発の“お披露目”ではなく、キャラクターとテーマを継続して育てていく連続劇である。劇伴にとってこれは、単発のパスティーシュでは務まらない仕事だ。人物ごとのテーマを立て、8話を貫く構造を音で設計しなければならない。
Halo、メタルギア、攻殻──“越境しつづけたふたり”の必然
ではなぜ、この二人だったのか。戸田信子と陣内一真は、2013年に作曲家=プロデューサーのユニットを結成し、映像音楽に特化した制作会社を立ち上げたコンビだ。二人の来歴を並べると、この起用が偶然ではないことがよくわかる。
- 陣内一真——広島出身、バークリー音楽大学卒。コナミを経て343インダストリーズで『Halo 4』『Halo 5: Guardians』を担当し、後者では英国アカデミー賞(BAFTA Games)にノミネート。『メタルギアソリッド4』にも関わり、2022年には新海誠監督『すずめの戸締まり』の音楽(RADWIMPSと共同)で日本アカデミー賞・最優秀音楽賞を受賞している。
- 戸田信子——陣内とのタッグで、Netflixの『攻殻機動隊 SAC_2045』や『ULTRAMAN』といった、世界配信を前提としたアニメのスコアを重ねてきた。
ゲーム、ハリウッド級のフランチャイズ、そして世界配信アニメ。二人が積んできたのは、いずれも「言語も文化も越えて届く音」を作る仕事ばかりだった。『スター・ウォーズ』という究極の越境コンテンツが彼らを選んだのは、むしろ自然な帰結に思える。日本の劇伴が“輸入する側”から“任される側”へと回った象徴的な一枚だ。
全27曲、トラックリストから読む「銀河の呼吸」
配信されたアルバムのトラックリストを眺めるだけでも、スコアの設計図が透けて見える。冒頭を飾るのは「The Ninth Jedi Main Theme」(2:42)。そこから「The Rise of Nawaam」「Droid Army」といった勢いのある場面曲が続き、中盤には「Tafflah's Theme」「Zhima's Theme」、そしてアルバム最長の「Nawaam's Theme」(5:56)と、明確に“人物のテーマ”が据えられている。連続シリーズらしく、キャラクターごとのモチーフを軸に組み立てられていることが一覧から読み取れる。
後半は「Dark Side」「The Duel」「The Jedi Path」「New Dawn」と、いかにも『スター・ウォーズ』的な光と闇のドラマが並び、締めは「The Ninth Jedi End Credits」(0:57)。王道の作劇に沿いながら、メインテーマを軸に27曲を有機的につないでいく——これはまさに、二人がゲームやシリーズ物で磨いてきた“長尺を統御する”手つきそのものだ。ウィリアムズの遺産に真正面から挑むのではなく、キャラクター・テーマの積み重ねで銀河を呼吸させる。そのアプローチにこそ、日本の劇伴が世界の一級フランチャイズに刻んだ確かな足跡がある。まずはメインテーマから、耳で確かめてほしい。