秋クールの劇伴地図:まず「誰が、何本」を数えてみる
夏アニメの劇伴ガイドを書いたのが7月の頭。あれから2か月半、気づけば9月も後半で、秋クールの放送開始日が続々と確定している。今回もいつものやり方でいこう。作品のあらすじや声優ではなく、「音楽:誰」の欄だけを片っ端から並べて、そこから見えてくる季節の形を読む。アニメ!アニメ!の秋アニメ一覧(9月17日更新)を土台に、各作品の公式サイトやプレスリリースで裏を取った範囲で書く。
まず数えて驚いたのが、桶狭間ありさの名前の多さだ。『薬屋のひとりごと』第3期(10月2日、日本テレビ系「FRIDAY ANIME NIGHT」)では神前暁・Kevin Penkinとの共同、『朱色の仮面』(10月10日、読売テレビ・日本テレビ系)では単独、さらに『おじさんはカワイイものがお好き。』でも音楽担当として名前が挙がっている。夏に『姫騎士は蛮族の嫁』のサントラを書いたばかりの人が、秋は3本。『呪術廻戦』で一気に知名度を上げてから数年、いまや「クールに複数本を任される作曲家」の一人になった。
もう一人、複数本なのが大間々昂だ。『アオのハコ』Season2(10月4日、TBS系全国28局ネット、日曜16時30分)で前期に続いて単独担当しつつ、サテライト制作の『PSYREN -サイレン-』(10月5日、TOKYO MXほか)では斎木達彦・兼松衆との3人体制に入っている。青春スポーツものの繊細なピアノと、超能力バトルの重い低音を同じ秋に鳴らすわけで、「大間々昂の幅」を測るには絶好のクールになりそうだ。
『薬屋のひとりごと』第3期は、3人体制のまま劇場版へ
秋の本命はやはり『薬屋のひとりごと』第3期だろう。音楽制作会社MONACAの公式発表(8月15日)によれば、第1期・第2期に続いて神前暁がKevin Penkin、桶狭間ありさと共同で担当する。そして12月11日には劇場版の公開も控えている。TVシリーズの3人体制が、そのまま映画のスケールへ持ち上がる格好だ。
この3人体制、改めて考えると相当に贅沢な設計だと思う。神前暁はMONACAの看板で、〈物語〉シリーズの会話劇を17年間支えてきた人。Kevin Penkinは『メイドインアビス』や『神之塔』で知られる、オーストラリア出身のオーケストラ寄りの書き手。桶狭間ありさは前述のとおり、いま最も本数を抱える中堅だ。後宮ミステリーという、静かな会話と華やかな儀礼と時折の緊迫が同居するジャンルを、それぞれ得意分野の違う3人で分担する。第1期のサントラを聴き返すと、二胡や笛の入る中華風の曲と、西洋オーケストラの曲、そしてミニマルな電子音の曲がきれいに住み分けているのがわかる。第3期でその住み分けがどう進化するか、そして12月の劇場版でどこまで「大きく」なるかは、今季いちばんの楽しみだ。
岩崎琢の『ジャンケットバンク』は異例の延期──「劇伴は完成しているのに」問題
一方で、秋の目玉の一つが消えた。岩崎琢が音楽を担当するギャンブルアニメ『ジャンケットバンク』(テレビ東京、10月5日開始予定)が、9月9日に放送延期を発表したのだ。KAI-YOUの報道によると、製作委員会は「映像制作のスケジュール上の都合」を理由に挙げたが、原作側の公式アカウントは「製作委員会側の進行管理に著しい問題」があったと、より踏み込んだ説明をしている。新しい放送時期は未定で、決まり次第告知されるという。
劇伴好きとしてどうしても気になるのは、岩崎琢のスコアの行方だ。夏に『ガチアクタ』で南アフリカのチャートを獲った(当サイト8月13日の記事参照)ばかりの人が、次に選んだのが「銀行が主催する命懸けのギャンブル」という題材。岩崎琢のビッグバンドとブレイクビーツが、あの緊張感の高いテーブルでどう鳴るのか、正直いちばん聴きたかった秋アニメだった。劇伴は通常、放送よりかなり前に録音を終えている。作品が延期されても音楽はすでに存在しているはずで、その音が世に出る日が遠のくのは、素直に惜しい。体制立て直しの後、万全の形で聴けることを願うしかない。
配信組が熱い:ジョジョSBRは9月25日、怪獣8号は坂東祐大の短編、エッジランナーズ2は10月20日
地上波のクール開始より一足早く動くのが配信組だ。まず『スティール・ボール・ラン ジョジョの奇妙な冒険』の2nd&3rd STAGE、全11話が9月25日からNetflixで配信される。音楽は引き続き菅野祐悟。3月の1st STAGE配信で「ジョジョ7部をどう鳴らすか」の答えはある程度見えていたが、レースが本格化する2nd以降、菅野祐悟の"交響曲を書く男"としての手癖がどこまで前に出てくるかが見どころだ。
『怪獣8号』は9月5日から全4話のオリジナルショートアニメ「鳴海の平日」をYouTube「TOHO animation」チャンネルほかで配信中で、音楽は本編と同じ坂東祐大。9月19日配信の第3話「西のアイツ編」、26日の第4話「同期のキズナ編」と続く。是枝裕和の実写『ルックバック』(9月12日サントラ発売)でクラシックギター4本のスコアを書いた直後に、今度は怪獣を狩る隊長の「平日」を鳴らす。振り幅が大きすぎる。
そしてNetflixの『サイバーパンク: エッジランナーズ2』は10月20日配信。TRIGGER制作、監督は五十嵐海に交代し、脚本は前作から続く大塚雅彦とバルトシュ・シュティボルが担当する。本稿執筆時点で公式サイトに作曲者の記載はなく、前作の音の記憶が強いだけに、誰が引き継ぐのかは今後の発表を待ちたい。
そのほか、劇伴目線で押さえておきたい秋アニメ
- 『アオアシ Season2』(10月4日)──横山克が続投。ピッチの音を継ぐ夏の記事でも書いたとおり、サッカーアニメの劇伴は「走る音」の設計が命。
- 『氷の城壁』第2期(10月1日)──佐久間奏×田渕夏海の二人体制が継続。交わらない視線を音で描く、静かな青春もの。
- 『幻想水滸伝』(10月)──スーパーカーの中村弘二が13年ぶりのTVアニメ劇伴。9月19日に川口で開催の幻想水滸伝オーケストラコンサート「Voyage」と合わせて聴きたい。
- 『死亡遊戯で飯を食う。44:CLOUDY BEACH』(9月25日)──松本淳一が続投。7月に全41曲のサントラが出たばかり。
- 『貸した魔力は【リボ払い】で強制徴収』(10月3日)──大谷幸。『わたしの幸せな結婚』などで知られるベテランが異世界コメディをどう鳴らすか。
- 『傷だらけ聖女より報復をこめて』Season2(10月1日)──onoken。音ゲー出身の作家がダークファンタジーを続投。
- 『FX戦士くるみちゃん』──伊賀拓郎。為替で全財産を溶かす少女の物語に、この人のポップさは相性が良さそうだ。
秋の傾向を一言でまとめるなら、「続投の安定」と「複数作曲家体制の定着」だ。薬屋の3人体制、PSYRENの3人体制、そして夏の『攻殻機動隊』の3人体制と、"合議制の劇伴"が例外ではなく選択肢の一つになりつつある。その一方で、ジャンケットバンクの延期が示すように、劇伴がどれだけ良くても作品全体の制作体制が整わなければ音は届かない。10月、まずは薬屋の第1話で、あの二胡の音が帰ってくるのを待とう。