今日8月8日、グランキューブ大阪のメインホールで『僕のヒーローアカデミア』IN コンサートの大阪公演が幕を開ける。アニメ10周年企画の目玉として、シリーズの劇伴を一手に担ってきた作曲家・林(はやし)ゆうきが登壇し、スペシャル・オーケストラ・バンド「THE HEROES」とともに“あの戦いの音”を生で鳴らす。山下大輝・岡本信彦らキャストの生アフレコやトークも交え、映像とオーケストラが同じ空気を共有する一夜だ。この機会に、いま最も忙しい劇伴作家のひとり・林ゆうきの音を改めて掘ってみたい。
原点は「新体操のマット」にあった
林ゆうきは1980年生まれ、京都市出身。音楽の入り口は少し変わっている。高校時代に男子新体操の選手となり、その演技で流すBGMを自分で選ぶうちに、音楽そのものへのめり込んでいった。やがて選ぶ側から作る側へ回り、新体操の伴奏曲を手がける作曲家になる。ここが決定的に面白い。決められた尺のなかで、身体の動きと感情のピークを音で設計する——これはまさに、映像に音を付ける劇伴の仕事そのものだからだ。マットの上で培った“時間と高揚のコントロール”が、後年の彼の武器になっていく。
澤野弘之に送った一本のデモテープから
転機は、先輩作曲家・澤野弘之にデモテープを送ったことだった。それをきっかけに2009年から劇伴制作の現場へ入り、以降キャリアは一気に加速する。刑事ドラマ「ストロベリーナイト」、法廷劇「リーガルハイ」、連続テレビ小説「あさが来た」など実写作品で腕を磨きつつ、アニメでは『ハイキュー!!』『僕のヒーローアカデミア』『ブルーロック』『メダリスト』『SAKAMOTO DAYS』と、ジャンルを越えて代表作を積み上げてきた。スポーツものの“疾走感”と、ヒーローアクションの“熱と重量”。相反する二つの手触りを、同じ作家が高い純度で鳴らし分けられるのは、案外珍しいことだ。
「走る音楽」が鳴らす青春
林ゆうきの真骨頂は、やはり“動き”を音にすることだ。『ハイキュー!!』でコートを疾走する選手たちに寄り添うビート、『ブルーロック』のエゴイズムを煽る攻撃的なリズム、そして『ヒロアカ』で個性(クセ)がぶつかり合う瞬間のブラスの咆哮——どれも「身体が前に進む」感覚を、聴き手の鼓動ごと持っていく。新体操の伴奏で培った“動作と音の同期”が、そのまま画面の中のスポーツやバトルへ地続きに流れ込んでいるのがよく分かる。彼の劇伴を並べて聴くと、ジャンルは違えど「息が上がる音楽」という一本の背骨が通っていることに気づかされる。今年8月に横浜・京都・名古屋を巡る『Free!』オーケストラ公演など、劇伴をコンサートで“再演”する文化が定着しつつあるいま、林の音もまたホールで確かめる価値のある一作だ。
「映像を良くする音楽」という哲学
林が繰り返し語るのは、自分が目立つためではなく「映像をよりよくするための音楽」という姿勢である。ミュージシャンとして前に出過ぎない禁欲があるからこそ、シーンに寄り添ったときの破壊力が際立つ。2021年には個人事務所「林製作所」として独立し、活動の自由度も増した。今年は5月30日のパシフィコ横浜公演に続く今回の大阪公演(8月8日・9日)、さらに12月には自身の名を冠したコンサート企画「林ゆうき〜劇伴食堂」も控える。映像という“相棒”をあえて外し、音だけで観客を立ち上がらせられるか——コンサートは、劇伴作家にとって最もスリリングな腕試しの場でもある。大阪の夜、その答えが鳴る。