「攻殻」の音が、3人の合議制で鳴り始めた

1989年に士郎正宗が原作を発表して以来、押井守の劇場版からハリウッド実写まで、「攻殻機動隊」というシリーズはいつも“その時代の音”を連れてきた。川井憲次の民謡的コーラス、菅野よう子のエレクトロニカ、そして歴代の実験音響——劇伴を並べるだけで、日本のポップ/劇伴史の縮図になってしまうのがこのシリーズの凄みだ。だからこそ、最新TVシリーズ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』が「誰の音になるのか」は、劇伴好きにとって静かな一大事だった。答えは、ひとりの巨匠ではなく“3人の合議制”。音楽監督・岩崎太整を軸に、小西遼、YUKI KANESAKAが名を連ねる共同体制だ。そのオリジナルサウンドトラックが、2026年9月9日にCD、9月30日にアナログ盤(2LP)で登場する。

中心にいる岩崎太整という座標

音楽監督を務める岩崎太整は、映画『竜とそばかすの姫』で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞し、現在公開中の『TOKYOタクシー』の劇伴も手がけたばかり。ヒップホップ由来のビート感と、ホールを鳴らすオーケストレーションを同じ手つきで扱える稀有な作家だ。攻殻という題材は、電脳と身体、無機と有機のあいだで揺れつづける物語。ジャンルを軽々と横断できる岩崎が“監督”として全体の座標を引くのは、シリーズの過去を踏まえても深く腑に落ちる人選だと思う。ひとりで背負い込むのではなく、羅針盤の役割に徹する——そんな距離感が今回のポイントだ。

小西遼とYUKI KANESAKA、二つの外部回路

面白いのは、岩崎ひとりに全部を担わせないこと。小西遼は、2025年の大阪・関西万博 開会式で音楽監督を務め、Chara+YUKIやMrs. GREEN APPLE、TOMOOのサウンドプロデュースまで手がける“越境者”。管楽器やアンサンブルの生々しい呼吸を持ち込む存在だ。もう一人のYUKI KANESAKAはアメリカを拠点に活動し、『Dr.STONE』などで知られる作家で、海外的なプロダクション感覚とビートメイクを武器にする。中心に岩崎、そこへ“生楽器側”と“ビート側”の外部回路を二本挿す——この座組みは、攻殻の世界に不可欠な「人間味」と「非人間味」を、まるで配線図のように役割分担している。合議制はともすると散漫になりがちだが、明確な音楽監督がいる合議は、むしろ音の振れ幅を広げる装置になりうる。3人がそれぞれの回路から流し込む電流が、どんな“Ghost”を灯すのか。

2形態・特殊仕様、そしてtarou2のジャケット

リリースは2枚組CDとアナログ2LPの2形態。CDの初回生産分は特殊パッケージ仕様で、ジャケットはサイエンスSARU監修のもと、tarou2が新規に描き下ろす。アニメ本編は2026年7月からカンテレ/フジテレビ系で放送中で、サントラはその“音の総集編”になる。ちなみにタワーレコードでは、旧「STAND ALONE COMPLEX」シリーズ全5作と『イノセンス』のアナログ化も並行して進行中——過去と最新が同じ棚に並ぶ、攻殻の音楽史を俯瞰できる絶好のタイミングでもある。ひとりの署名から、3人のネットワークへ。時代とともに音の“身体”を変えてきたこのシリーズらしい新章を、まずは9月に耳で確かめたい。シリーズを追いかけてきたファンほど、この“新しい配線”に胸が高鳴るはずだ。