プリキュアの劇伴は、20年以上にわたって“世代交代”を続けてきた稀有なシリーズだ。歴代の作曲家が入れ替わりながら、そのたびに「戦うヒロインの音」をアップデートしてきた。そして2026年、シリーズ最新作『名探偵プリキュア!』の音を託されたのが、深澤恵梨香と馬瀬みさきという二人の女性作曲家だ。9月16日、映画『映画名探偵プリキュア!不思議な庭と2人の秘密』のオリジナル・サウンドトラックが主題歌シングルと同時発売される。この一枚は、いま最も勢いのある“プリキュア・サウンド”の現在地を映す鏡になる。
「6代目」深澤恵梨香と、大阪音大首席の馬瀬みさき
深澤恵梨香は東京音楽大学の作曲指揮専攻出身で、作曲を千住明に師事した実力派。舞台や実写映画の作・編曲に加え、音楽監督や指揮までこなす。映画『君の名は。』の音楽協力を経て、『デリシャスパーティ♡プリキュア』の一部楽曲を担当し、『ひろがるスカイ!プリキュア』からプリキュア劇伴の“6代目”として本格参加した経歴を持つ。クラシックの厳格な訓練を土台にしながら、「プリキュアらしさに捉われない」姿勢でヒーロー像の音楽を鳴らしてきた作家だ。
もう一人の馬瀬みさきは、1997年生まれの兵庫県加古川市出身。大阪音楽大学ミュージッククリエーション専攻を首席で卒業し、在学中に「プリキュア」楽曲へ携わったことから本格的に作家活動をスタートさせた。ポップ、ジャズ、ロック、ファンク、クラシック、エレクトロニカと、ジャンルを軽やかに横断する筆致が持ち味。世代も出自も異なる二人が、いまプリキュアの音を並走して支えている。
「キミとアイドル」から「名探偵」へ──二度目のタッグ
この二人がタッグを組むのは初めてではない。前作『キミとアイドルプリキュア♪』でも共同で音楽を手掛けており、『名探偵プリキュア!』はそのコンビが挑む二作目にあたる。「アイドル」から「名探偵」へ。作品のモチーフが180度変われば、鳴らすべき音も変わる。TVシリーズのサントラでは「闇の劇場」「ウソノワール」(馬瀬)や「オープン!ティアアルカナロッド!」(深澤)といった楽曲が、ミステリアスで洒脱な“探偵もの”ならではの空気を作り込んでいた。二人の分業が、そのまま作品世界の奥行きになっているのが面白い。
付け加えるなら、プリキュアの劇伴は毎年数十曲、シリーズ全体では膨大な楽曲が積み上がる長距離走でもある。変身、必殺技、日常、そして敵との対決──定番の“見せ場”に確かな型がある一方で、作品ごとのテーマに合わせて色を塗り替える柔軟さが常に求められる。「名探偵」というモチーフなら、緊張感のある低音のうねりや、洒脱なジャズのビート、謎解きの高揚を煽る転調が生きる。深澤のクラシック的な構築力と、馬瀬のジャンル横断的なポップ感覚が噛み合えば、そのどれもが一枚のアルバムの中で自然に同居できる。二人体制ならではの引き出しの多さこそ、いまのプリキュア・サウンドの強みだと言っていい。
映画サントラ9/16、主題歌と同時発売
そして注目の映画『不思議な庭と2人の秘密』は9月18日公開。オリジナル・サウンドトラックは主題歌シングルとともに9月16日にマーベラスから同時リリースされる。主題歌シングルには「FIRST PRISM」(歌:増井優花&吉武千颯)と「First Step」(歌:石井あみ)を収録。サントラ側は、TVシリーズ同様に深澤・馬瀬コンビが劇場版として書き下ろした本編BGMが並ぶ見込みだ。子ども向けだと侮ってはいけない。プリキュアの劇伴は、フルオーケストラからジャズ、エレクトロニカまでを本気で鳴らす“作曲家の実験場”でもある。「名探偵」というモチーフを二人がどんな音で解いてみせるのか──その推理の答え合わせは、9月16日に耳で確かめたい。