78部門のなかに、しれっと生まれた3つの椅子
今年6月13日、一般社団法人CEIPAが主催する国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」の受賞結果が発表された。約5,000人の“音楽人”が投票する、全78部門という国内最大級のアワードだ。ニュースの見出しをさらったのは最優秀アーティスト賞のMrs. GREEN APPLEや、最優秀楽曲賞にサカナクションの「怪獣」といった華やかな結果だった。だが、劇伴を愛する人間として本当に見逃せないのは、その長大な部門リストの奥のほうに、静かに新設された3つの賞である。
最優秀劇中伴奏音楽賞(Best Original Score)。しかもそれが「映画」「ドラマ」「アニメ」の3部門に分かれて設けられた。これまで“主題歌”や“アニメ楽曲”は多くの賞で光を浴びてきたが、映像の背後で鳴り続ける「劇伴=スコア」そのものに、国内の大型アワードがここまで明確な椅子を用意したのは大きな出来事だ。地味に見えて、これはちょっとした事件だと思う。
受賞した3人(と3組)の顔ぶれ
まず映画部門は、映画『国宝』の原摩利彦。同作は「最優秀サウンドトラックアルバム賞」も同時に射止めており、実質のダブル受賞だ。ピアノと電子音、室内楽的な響きで“芸”の凄みと業を静かに支えたスコアが、劇伴とアルバム双方の物差しで評価されたことになる。
ドラマ部門は、NHK連続テレビ小説『ばけばけ』の牛尾憲輔。エレクトロニカ由来の繊細な音響設計で知られる作家が、朝の“国民的ドラマ”という真ん中の座に選ばれたのは象徴的だ。そしてアニメ部門は、オリジナルアニメ『LAZARUS ラザロ』のKamasi Washington、Bonobo、Floating Pointsという海外ジャズ/エレクトロニクスの猛者たち。日本のアニメが世界の音を呼び込み、その音がまた日本の賞で讃えられる──国境の溶けかたが、そのまま賞の顔ぶれに出ている。
ちなみに関連部門では、久石譲の指揮盤『Joe Hisaishi Conducts』が最優秀クラシックアルバム賞、Kan Sanoの「神様のメロディ」が最優秀インストゥルメンタル楽曲賞と、“歌のない音楽”がずらりと並んだ年でもあった。
「数字」と「耳」を両輪にした選び方
面白いのは選定の仕組みだ。劇中伴奏音楽賞のエントリーは最大45作品。その内訳は、ビデオリサーチの視聴率データ上位15作品という“定量選定”に、日本音楽出版社協会の加盟出版社や劇伴の有識者が推薦する15作品の“定性選定”を加える、という二段構えになっている。数字で拾い、耳で拾う。ヒットの規模だけでも、通の評価だけでもない設計だ。
さらに最終投票は順位制で、1位に4点、2位に2点、3位に1点。受賞対象は歌手ではなく「劇中伴奏音楽のクリエイター(作家・編曲家・コンポーザー)」と明記されている。つまり“この曲がヒットした”ではなく、“この映像を音でどれだけ深めたか”を、複数の耳が点数化して選ぶわけだ。劇伴という仕事の性質にかなり誠実な物差しだと感じる。
この新設部門は、8月29日に腹巻猫が主宰するイベント「Soundtrack Pub」Mission#51でも特集として振り返られる予定だという。賞ができたことより、その賞を肴に劇伴を語る場が続いていくことのほうが、じつは大きい。映像の裏方だった音楽が、堂々と主役として名前を呼ばれる。その第一回を、私たちは今まさに目撃している。