9月30日、ひとつの“懐かしい”曲が静かに解禁されました。Milan Recordsが先行配信した「Guile's Theme」──そう、1991年のアーケード版『ストリートファイターII』で下村陽子さんが書いた、あの「ガイルのテーマ」です。10月16日に全世界同時公開(日本は東和ピクチャーズ・東宝配給)される実写映画『ストリートファイター/ザ・ムービー』のサウンドトラックから切り出された1曲目。アルバム本体は映画公開と同じ10月16日、全39曲でリリースされる予定です。

格ゲー世代にとっては「ついに来たか」という一報ですが、劇伴ファンとして面白いのは、この曲を“誰が”“どう”鳴らし直したか、という点。今回はそこを掘ってみます。

スコアを書いたのは『コブラ会』のふたり

本作の音楽を担当するのは、レオ・バーレンバーグとザック・ロビンソンのコンビ。2018年から続いたNetflixの『コブラ会』で、80年代の『ベスト・キッド』を現代に蘇らせる音を書き続けてきたふたりです。ほかにも『ツイステッド・メタル』『WEIRD: The Al Yankovic Story』『Bottoms』、そしてマーベルのアニメ『スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド』など、共作のクレジットは多岐にわたります。

この人選、実はかなり“わかってる”と思うんです。『コブラ会』の音楽は、オーケストラの大きさに、80年代ハードロックのギターやシンセの手触りをためらいなく混ぜ込むスタイル。つまり「ノスタルジーを照れずに鳴らす」ことに関しては、ハリウッドでもトップクラスの経験値を持つふたりなんですね。格闘ゲームという、ある世代にとっての“青春の記憶”そのものを映画にするなら、これ以上ないマッチングです。監督は『ツイステッド・メタル』でもふたりと組んだキタオ・サクライ。ゲーム原作の実写化で、すでに“チーム”として呼吸が合っている布陣といえます。

原曲へのリスペクトと、足されたギターソロ

では肝心の新版「ガイルのテーマ」はどうなっているのか。GameSpotは、原曲の芯を保ちながら「キックアスなギターソロと、いくつかのシネマティックな手直し」が加わったと伝えています。あの跳ねるベースラインと勇ましい主旋律はそのままに、スクリーン映えするスケールへと“増築”したイメージでしょう。

ふたりはこんなコメントを寄せています。「若く駆け出しの作曲家だった頃、僕らは下村陽子さんの象徴的な『ガイルのテーマ』を、たぶん『レイダース/失われたアーク』よりも聴いていた。このバージョンに、僕らがこの音楽に抱いている愛と敬意を感じてもらえたらうれしい」。ジョン・ウィリアムズの名作より聴き込んだ、という言い方に、ゲーム音楽で育った世代の作曲家がいまハリウッドの第一線にいる、という時代の変化がにじんでいます。

ちなみに映画でガイルを演じるのは、WWEのスター、コーディ・ローデス。プロレスラーの肉体に、あのテーマが重なる──それだけでもう、劇場で鳴った瞬間の歓声が想像できてしまいます。

「なんにでも合う」曲が、映画の中心に戻ってくる

「ガイルのテーマ」には、ゲームを離れたもうひとつの人生があります。2000年代後半から2010年代にかけて、「どんな映像にもこの曲を当てるとハマる(goes with everything)」というネットミームとして世界中で再生され続けたこと。ゲームを遊んだことのない人まで、この曲だけは知っている──そんな稀有な位置にいる楽曲なんです。

その“なんにでも合う”曲が、今度は本来の持ち主であるガイルのもとへ、しかも大作映画の劇伴として帰ってくる。ここに今回のリリースのいちばんの面白さがあると思います。ミームとして切り離され、文脈を失って拡散した旋律を、物語の中のキャラクターのテーマ=ライトモチーフとして再び機能させる。劇伴の文法でいえば、これはかなり贅沢な“里帰り”です。

当サイトでも以前取り上げた『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』がブライアン・タイラーと近藤浩治さんの旋律を組み合わせたように、ハリウッドが日本のゲーム音楽の“原典”を正面から扱う流れは、確実に太くなっています。その中で今回は、原曲の作曲者・下村陽子さんの名前を、作曲家自身がコメントで真っ先に挙げている。この敬意の示し方は、日本の作曲家の仕事が世界でどう受け止められているかを示す、ひとつの指標にもなりそうです。下村さんといえば、9月に39周年記念のオーケストラ公演を開いたばかり。キャリアの節目の年に、35年前の1曲がハリウッドで新しい命を得る、というのもドラマチックですね。

  • 先行配信:「Guile's Theme」(2026年9月30日/Milan Records)
  • サウンドトラック:2026年10月16日リリース予定・全39曲
  • 音楽:レオ・バーレンバーグ&ザック・ロビンソン(原曲「ガイルのテーマ」作曲:下村陽子)
  • 映画:『ストリートファイター/ザ・ムービー』2026年10月16日 全世界同時公開/監督:キタオ・サクライ

全39曲の中に、リュウや春麗のテーマがどんな形で織り込まれているのか。トラックリストの全貌と、劇場の音響で鳴るガイルのテーマ──10月16日が待ちきれません。