生粋の陰キャである筆者には別のところからダメージをくらってしまうほどに解像度の高すぎる引っ込み思案な主人公の言動が、時に忘れかけていたときめきとして、時に忘れたままでいたかった昔の古傷を刺しまくる青春ど真ん中ストーリーのハニーレモンソーダ。地味でさえないけれど、優しい性格の主人公の女の子がキラキラした人生を送っていそうな王子様系(とはいえ、三浦君は性格的にはちょっと変化球で俺様入ってる感ありますが)の男の子を好きになる。きっかけは以前自分をいじめてきていたヤンキーっぽい人たちから守ってもらったこと。主人公は初めての恋に戸惑いながらもドキドキするようなシチュエーションに巻き込まれていく…ここまで王道過ぎるほどに王道な少女漫画ストーリーだとなんだか逆に新鮮に感じるほど。おそらく女性であれば間違いなくどんな方でも楽しめるようなストーリーなのではないかと思います。注意したいのは筆者を含む陰キャ男性。舞台となる八美津高校は自由な校風で生徒からは人気がある反面保護者からはあまりよく思われていない、いわば陽キャ達の巣窟的な学校。主人公の石森羽花は中学時代に「石」という蔑称で呼ばれるほどに存在感がなく、感情をあまり表に出したがりません。それを気にかけてもう一人の主人公三浦界が事あるごとに羽花をかまったり助けたりするのですが、その際周りのモブ生徒達は石森羽花を茶化すように持て囃していたりします。演出的に悪気がないのが伝わってくるのですが、男性は女性に比べてプライドが高い傾向があるので、クラスから軽くでもイジられている描写があると、少年向けの漫画やアニメでは「この主人公はあまり良いとはいえない扱いを受けている」というランドマークになっていることが多いです。周囲から軽く扱われている状況があまりわかっていない「変わり者系」の主人公なら話は違ってきますが、石森羽花は周囲に気を遣ってしまい自分を偽り続けてきたタイプ。彼女は素直な性格だからこの状況をクラスに受け入れられている!ととらえられていますが、陽キャのそういうノリが嫌いな筆者のようなタイプは「ああ、こういう時って自分の感情押し殺してクラスの寒いノリに無理矢理合わせてたよなぁ。そんで夜になんか悔しい気持ちを趣味で紛らわせてたよな…」と悲しい記憶が蘇る可能性があるかもしれません。ちなみに筆者はそんな時、そのシーンの劇伴に心を預けてみます。主人公がどう感じているのか?が特に一番演出として顕著に出るのは劇伴だからです。悲しい音楽がかかっていなければ、ああなんて素直で素敵な心の持ち主なのだ。自分もかくありたかった…と思えてそんな場面もとても楽しめるようになります。
そんな素直で穏やかな性格の主人公を表すかのような、ゆったりとしたテンポのピアノ中心の劇伴が多く、爽やかな朝の通学路や休み時間の喧騒、学校の校舎の中の独特な空気感、そしてその中にいる自分(主人公)という存在を表しているかのような楽曲が印象に残りました。
ゆったりしたテンポはそのままに、ピアノの音数が増えていく場面なんかでは好きな人のことを考えて自分を変えなきゃとはやる心や緊張感が伝わってくるようです。前述したように劇伴は主人公が現在この状況でどのような気持ちでいるか、を言語ではなく音楽で表してくれるのでこういった王道の少女漫画のアニメでは一際大事な演出だなあと感じられます。
前項では陰キャ男性は視聴に注意を!と書きましたが、この素敵な劇伴があるからこそ、少女漫画の素晴らしさ、女の子はどんなことを考えて、こういった場面ではどんな気持ちでいるのかがわかるため、むしろすすんで見てほしいと今作の劇伴を聞いた今は思っています。

公式サイトhttps://honeylemon-anime.com/より引用