ヒロアカの劇伴は、ものすごくアニメと曲の親和性が高かった。カッコいいシーンが多いからこそ、曲も疾走感の溢れるカッコいい曲が多く、そして何より目が(耳が?)離せなくなるような緊張感があった。そんな楽曲達の人気の度合いは京都や東京で行われた劇伴祭での作曲家の林ゆうき先生のステージでの盛り上がりで証明されている。会場の一体感、血が熱くなるような熱狂、思わず振り上げてしまいそうになる拳。林ゆうき先生の楽曲にはそんな力が間違いなくある。しかしそんな大人気アニメであるヒロアカも終盤。原作に至っては最終回を迎えた。その寂しさは同じくジャンプ本誌の人気漫画である「僕とロボコ」で主人公の平凡人がヒロアカロスに陥り、取り乱す回があるほどだ。
しかし、そんなヒロアカには本編にも負けないほどにアツい外伝が存在するのだ。それがヴィジランテ。今回取り上げたアニメである。
そんな間違いない傑作のヒロアカから、オールマイトやイレイザーヘッドなどの人気キャラが登場し、さらにはオールマイトのテーマソングなんかが劇伴として再登場するこの演出はファンとしては非常に嬉しい。ヴィジランテの主人公である灰廻航一は本編の主人公緑谷出久と同じくオールマイトの大ファンであり、さらにヒロアカの物語が始まるより少し前の時間軸で語られる物語であるため、力を失っていないオールマイトが見られるのも相まって、何だかオールマイトのテーマがより一層力強く聞こえ、それも感慨深い。
ヒロアカの外伝だからといって、ヒロアカのキャラがメインキャラクターとして出てくるわけではない。この物語は「オールマイトに出会わなかった緑谷出久」というコンセプトでも書かれているらしく、主人公の灰廻航一はたしかに最初はあまり戦い向きでなく強くもなさそうな個性を持っている程度の一般人にすぎない。そして、プロのヒーローに憧れてはいるが、とあるトラブルが原因でヒーロー科を受けられず、自分がプロになれることはないと、出久と比べると少し大人な意見を持った主人公になっている。しかしその実態は冴えない個性とは裏腹に咄嗟に他人を助けてしまうというモノであり、ヒロアカ本編で言われている「ヒーローの資質」は備えているという事になる。
そんなヒーローが活躍する物語の劇伴を、林ゆうき先生がカッコよくしないはずはないんです。出久のテーマソングであるYOU SAY RUN!とは違い、テンポが遅い重めのギターリフとドラムから始まる(おそらく)航一のテーマソングは、徐々にバスドラム主体からスネアやタムなどの軽やかで爽快感のある音に変わっていき、ゆったりしたリズムの中で少しずつギターのリフもメロディを紡ぐようになっていく。鈍くも力強く光る、強い意志を感じるようなしみじみカッコいい楽曲になっている。これがまた航一のキャラと相まってめちゃくちゃカッコいいんです。
アニメを家で楽しんでいると、劇伴を注意して聴くようになった。映像の中に混ざり込む音として、時に雄弁に、時に縁の下で支えるような楽曲達にみせられたからだ。そしてそれは筆者が京都で取材させて頂いた京伴祭で林先生をはじめとした一流劇伴作家の方々の音楽に生で触れてから、一層強く思うようになった。
ヴィジランテの楽曲はヒロアカに負けず劣らずカッコいい。もちろん物語としての面白さも本編にも負けていない。こんな名曲をまた生で聴けるような機会に恵まれたら嬉しいと、今作の劇伴を聞いて強く思った。

公式サイトhttps://vigilante-anime.com/より引用